研究課題
本研究では、これまで多くの消化管癌組織や細胞株を用いて作製した遺伝子データベースのうち、特に大腸鋸歯状病変から発生する大腸癌の制御機構を明らかにするための候補分子の探索を行っている。本年度は、signal peptidase complex 18 (SPC18)に注目して、大腸癌および前癌病変における発現とその意義について検討を行った。免疫組織化学的にSPC18の発現は正常大腸粘膜ではほとんど見られないのに対し、大腸癌では細胞質に染色性が認められ、大腸癌での陽性率は137例中77例(56%)であった。臨床病理学的因子との関連では、SPC18の陽性例は有意に高い病期を示し、予後解析でも陽性例は陰性例と比較して有意に予後不良で、多変量解析ではSPC18の発現はstageと同様、独立した予後不良因子であった。siRNAを用いて大腸癌細胞株(Lovo, DLD-1)のSPC18をノックダウンすると増殖能や浸潤能の有意な低下が認められた。またSPC18の発現はβカテニンの核内集積と有意な相関関係を示し、EGFRやAktのリン酸化に寄与することも明らかとなった。前癌病変である腺腫(conventional adenoma, traditional serrated adenoma, SSA/P)においても種々の程度にSPC18の発現が見られたが、鋸歯状病変であるtraditional serrated adenomaやSSA/Pで特に高い発現は認められなかった。
2: おおむね順調に進展している
本年度解析したSPC18は特にserrated pathwayに深く関与する分子ではなかったものの、大腸癌の進展に関わる種々の分子の制御を行う重要な蛋白であることが明らかとなり、大腸癌における新規治療標的分子としての応用が期待される。多数の消化管癌のサンプルを用いたトランスクリプトーム解析によって得られた候補遺伝子を実際の大腸癌や前癌病変を用いてその意義を検証する作業は、おおむね順調に進展しているものと考えられる。
大腸鋸歯状病変から大腸癌へ進展するserrated pathwayでは、通常の大腸癌とは異なり胃型粘液形質を保持しているため、粘液形質を制御する分子の同定が必要と考える。これまで構築したデータベースの中から特に胃型粘液形質と関わる分子を候補とし、定量的RT-PCR法や免疫染色により多数症例の検証を行う予定である。さらに候補分子の生物学的機能解析や既知の分子との比較を行う予定である。
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