研究課題
癌の発生・治療抵抗性において癌幹細胞の重要性が指摘されている。細胞株レベルでは様々なマーカーが同定されているが、組織学的な特徴はまったく分かっていない。本研究では胃癌組織における癌幹細胞の組織形態学的な特徴を明らかにすることを目的とする。特に基底膜接着幹細胞に類似した細胞に注目し、組織学的な特徴を明らかにする。平成26年度では、癌幹細胞により構成されるスフェロイドに注目し解析を進めた。すなわち、胃癌細胞株MKN-45、MKN-74を材料にモノレイヤーの状態で培養したものと、スフェロイドを形成させた状態で培養したものからmRNAを抽出し、GeneChipを用いて網羅的遺伝子発現解析を行った。これらの遺伝子発現プロファイルを比較し、幹細胞が含まれているスフェロイドを形成させた状態で培養したもので発現が上昇している遺伝子を抽出した。スフェロイドを形成させた状態では、モノレイヤーの状態と比較し、KIFC1の発現が亢進していることが明らかとなった。KIFC1については利用可能な抗体があり、さらに検討を進めた。外科的に切除された胃癌166例を材料にKIFC1の発現を免疫染色で解析した結果、KIFC1は非腫瘍部胃粘膜ではほとんど染色されなかったのに対し、胃癌組織では多くの腫瘍細胞の核に染色された。合計で59例(36%)の症例で陽性例を認め、臨床病理学的因子との関連を解析した結果、KIFC1陽性例は有意に高分化腺癌が多く、有意に予後不良であった。次にMKN-74を材料にKIFC1の発現をsiRNAでノックダウンし、スフェロイド形成能について検討した。その結果、ノックダウンした細胞ではスフェロイドの数、大きさ、いずれもが低下した。以上の結果から、KIFC1は胃癌において発現が亢進しており、スフェロイド形成に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
本研究では胃癌組織における癌幹細胞の組織形態学的な特徴を明らかにすることを目的とする。H26年度の研究において、癌幹細胞が含まれるスフェロイドにおいて、KIFC1の発現が亢進していることを明らかにした。癌幹細胞のマーカーは数種類同定されているが、KIF遺伝子群については全く報告されていない。KIF遺伝子群は薬剤耐性との関連も指摘されており、癌幹細胞が薬剤耐性を有することと一致する。一方、免疫染色の解析では、腫瘍組織中の0-70%の癌細胞に染色された。癌幹細胞は腫瘍組織中の数パーセント程度と推定されており、KIFC1陽性細胞は明らかに数が多い。KIFC1陽性細胞の少なくとも一部は癌幹細胞であるが、多くは癌幹細胞ではないと考えられる。従って、KIFC1以外にも他のマーカーを同定することが必須である。KIFC1という新規癌幹細胞マーカーを同定し、研究は順調に進行してはいるが、他のマーカーの同定、あるいはより特異性の高いマーカーの開発が必須で有り、さらなる研究が必要である。
本研究では胃癌組織における癌幹細胞の組織形態学的な特徴を明らかにすることを目的とする。特に基底膜接着幹細胞に類似した細胞に注目し、組織学的な特徴を明らかにする。H25年度ではポドプラニン陽性細胞が癌幹細胞マーカーであることを明らかにし、H26年では、KIF遺伝子群、特にKIFC1が癌幹細胞マーカーとして有用であることを明らかにした。一方、免疫染色を行うと0~70%の腫瘍細胞が染色され、癌幹細胞に真に特異的ではないことは明白である。以上を踏まえ、基底膜接着幹細胞に特徴的に発現するインテグリンα2の発現を免疫染色で解析し、ポドプラニン陽性細胞、あるいはKIFC1陽性細胞とどのような関連があるのかを解析する予定である。当研究室では、幹細胞マーカーとしてReg IVやolfactomedin 4を同定している。これらとの関連も合わせて解析する。具体的にはポドプラニン、あるいはKIFC1とインテグリンα2、Reg IV、olfactomedin 4と蛍光二重免疫染色を行う。細胞株を用いてKIFC1の発現ベクターを導入し、ヌードマウス、あるいはSCIDマウスの皮下にゼノグラフトを作成し、造腫瘍能を検討する。幹細胞に重要である遺伝子であれば、造腫瘍能が増加するはずであり、癌幹細胞の維持に必須の遺伝子であるか否かを明らかにできる。またノックダウンも行い、造腫瘍能が低下するか否かも検討する。H27年度は本研究の最終年度であり、これまでの研究の総括を行うと共に論文を作成し、成果を公開する。
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すべて 雑誌論文 (15件) (うち査読あり 15件、 謝辞記載あり 11件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)
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