研究課題/領域番号 |
25460419
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
泥谷 直樹 大分大学, 医学部, 助教 (80305036)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | カンナビノイド受容体 / 食道癌 / 分子標的治療 |
研究概要 |
これまでに、内因性カンナビノイドの受容体分子(Cannabinoid receptor 1: CB1R)が食道癌組織で過剰発現しており、それが予後の悪化と強く相関していることを見出している。本年度は、CB1Rの発現亢進によって食道癌細胞がどのような悪性形質を獲得しているのかを明らかにした。数種類の食道癌細胞株について、特異的阻害剤や低分子二本鎖RNA (siRNA)、活性分子を用いてCB1Rシグナルパスウェイを不活化あるいは活性化して細胞形質(増殖能・浸潤能・生存能etc)の変動を検証した。 1.CB1Rの不活化による増殖能の変動 食道癌細胞株にCB1R阻害剤であるAM251を添加してCB1Rシグナルパスウェイを遮断したところ、増殖能は有意に抑制された。同様に、siRNAを導入してCB1RのRNA発現をノックダウンしても増殖能の抑制を認めた。以上のことから、食道癌細胞はCB1Rのシグナルパスウェイに依存して増殖能を獲得していることが示唆された。 2.CB1Rの活性化による増殖能の変動 食道癌細胞株をCB1RのリガンドであるMet-F-AEAで刺激してCB1Rシグナルパスウェイの活性化を試みた。予想に反して、リガンド投与による増殖能のさらなる亢進は認めなかった。このことから、CB1Rが過剰発現している食道癌細胞においてはCB1Rシグナルパスウェイはすでに最大限まで活性化された状態にあるのか、あるいはリガンド非依存的に恒常的に活性化されている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の本年度の研究項目は以下の3点であった。 1.食道癌の増殖能亢進におけるCB1Rの機能的役割の解明 2.食道癌の浸潤能・生存能亢進におけるCB1Rの機能的役割の解明 3.食道癌移植マウスモデルの構築 このうち1については、食道癌細胞株を用いた解析がすべて完了して明解な結果を得ることができた。2については、いくつかの予備実験を試行することにより、至適な実験条件を設定できたので、近日中に本実験を施行する予定である。3については、免疫不全マウスに移植可能な食道癌細胞株の選定と、移植細胞数および移植方法の決定、移植後の細胞の増殖・浸潤動態の把握を現在進めているところである。いずれの研究項目も計画に沿って実験が遂行され着実に成果が得られているものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究成果より、CB1Rが食道癌細胞において増殖能獲得に関わる重要な分子であることが示された。今後の研究項目を以下に挙げる。 1.CB1Rが増殖以外の細胞形質、特に浸潤能や生存能(抗アポトーシス能)に関与しているか否かを検証する。そのために、現在、テトラサイクリン存在下で短ヘアピン RNA (shRNA)を発現してCB1R RNAをノックダウンできる安定的細胞株を作製している。この細胞を免疫不全マウスに移植して腫瘍を形成させた後、テトラサイクリンを投与する。それによって発現誘導されたshRNAがCB1Rの発現を抑制することで腫瘍の増殖や浸潤、生存能に変化がみられるかを観察する。 2.食道癌細胞においてCB1Rの発現亢進に伴って活性化している細胞内シグナルパスウェイを明らかにする。阻害剤やsiRNAでCB1Rのシグナルパスウェイを抑制した細胞と、コントロール細胞からそれぞれRNAを回収して、マイクロアレイを用いて網羅的発現解析を行う。両者を比較して、有意に発現変動する遺伝子をCB1Rシグナルパスウェイに関わる分子候補として抽出する。 3.CB1Rを介した細胞内シグナルパスウェイを構成する分子の中で、治療の標的となり得る分子を同定する。上記の候補分子のうち、既存の阻害剤(低分子化合物や中和抗体等)が存在するものを選択する。食道癌細胞株にそれらの阻害剤を添加して、増殖能や浸潤能、生存能が抑制されるか否かを調べる。抑制効果があった阻害剤については、さらに食道癌移植マウスモデルを用いて、阻害剤が治療薬として使えるか否かを検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
年度末に発注した実験試薬が年度内に納入されなかったため。 次年度の実験試薬購入費に充てる。
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