研究課題
これまでに、マリファナ様物質である内因性カンナビノイドの受容体分子(Cannabinoid receptor 1: CB1R)が食道癌組織で過剰発現しており、CB1Rを高発現している食道癌症例は低発現症例に比べて、有意に予後が不良であることを示した。さらに、食道癌細胞株ではCB1R依存性に増殖能を獲得していることを見出した。1.食道癌細胞の増殖におけるCB1Rの機能的意義種々の食道癌細胞株をCB1Rの特異的阻害剤であるAM251で処理すると、どの細胞株も増殖は抑制されたが、その効果は細胞株間で異なっていた。抑制効果とCB1Rの発現量に関連性は認めなかったことから、CB1Rより下流のシグナルパスウェイの依存度に起因するものと考えた。2.食道癌細胞の浸潤能獲得におけるCB1Rの関与について食道癌症例において、CB1R発現と臨床病理学的因子を比較検討したところ、高発現症例は低発現症例に比べて、有意にリンパ節転移および遠隔臓器への転移が多いことが分かった。このことから、CB1Rは癌細胞の運動能や浸潤能、さらにはアノイキス(足場を失うことで誘導されるアポトーシス)抵抗性を増強していることが予想される。この仮説を証明するために、CB1R阻害剤処理やsiRNA導入によるCB1Rの不活性化、逆にリガンド刺激によるCB1R活性化によって運動能や浸潤能、アノイキス抵抗性が変化するのかをそれぞれWound-healing assay、Boyden chamber assay、非接着性プレート培養法で調べた。
2: おおむね順調に進展している
本年度の研究項目は以下の3点であった。1.食道癌細胞の増殖能亢進におけるCB1Rおよびそのシグナルパスウェイの機能的意義の解明2.食道癌細胞の浸潤能および生存能におけるCB1Rの機能的意義の解明3.食道癌移植マウスモデルの構築1については、食道癌細胞株間のAM251による増殖抑制効果の違いについて検討を行い、CB1R発現量とは相関しないことが分かった。そこでCB1R以下のシグナルパスウェイの活性化を調べ、それらとの相関性を検討している。2については、通常浸潤能を調べる際に用いられるBoyden chamber assayには利用できない細胞株が複数あったので、他の細胞株を入手しているところである。3に関しては、テトラサイクリン存在下でCB1R発現が消失する細胞株の樹立を試みているところであり、これまでに数クローンの選別に成功している。これらが移植細胞として使用できるかを確認している。いずれの研究項目も計画に沿った実験が遂行され、着実に成果を挙げていると考える。
これまでの研究成果より、CB1Rが食道癌の発症・進展に関わる分子であり、さらに患者の予後を予測し得る因子であることが示された。本研究の今後の方向性を以下に挙げる。1.CB1RおよびCB1Rシグナルパスウェイの治療応用CB1R発現によって癌細胞にもたらされるシグナルパスウェイを網羅的に探索して、治療標的となり得る分子を同定する。具体的には、食道癌細胞株の網羅的発現解析とプロテオーム解析を行い、得られたデータをパスウェイ解析することで、候補分子を抽出する。2.CB1RおよびCB1Rシグナルパスウェイの早期診断法開発への応用これまでの知見から、CB1Rの発現は癌の浸潤深度に相関せず、上皮内癌でも高頻度に発現していることが明らかになっている。したがって、CB1Rの発現誘導に伴って細胞外に産生される分子が存在すれば、それは食道癌の新規マーカーとなり得る。上記の網羅的解析で得られたデータから診断マーカー候補分子も同時に抽出して、その可能性を検討したいと考えれいる。
年度末に発注した実験試薬が年度内に納入されなかったため。
次年度の実験試薬購入費に充てる。
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Cancer Med
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