大腸癌の血管と腫瘍の関係を検索するために、まず非浸潤状態の癌の血管新生、リンパ管新生における血管新生因子とMMP7の発現を確認した。臨床的に腫瘍部に著明な血流増加がみとめられると知られているPaget病にて検討を行った。Paget病14例、コントロール14例を対象とし、MMP7、VEGF、bFGF、COX-2の腫瘍における発現および内皮細胞マーカーによる脈管の分布を免疫組織化学染色を用いて比較検討した。腫瘍細胞は全例でbFGFの発現がみとめられ、血管数の増加、血管内腔面積割合(血流に相当すると考えられる単位面積当たりの血管内腔の面積総和)と有意な相関をみとめた。VEGFも腫瘍細胞に発現をみとめたが、明らかな相関はなかった。MMP7、COX-2は腫瘍細胞に少数発現するのみであった。 以上より、進行大腸癌においても同様の手法で検討を試みた。早期に肝臓、肺に転移した症例15例についてMMP7、bFGFの免疫染色を施行した。bFGFは腫瘍に広く陽性像をみとめ、比較的表面に近い腫瘍の方が発現の高い症例が多かったが、表層から深部まで一様に強陽性の腫瘍も存在した。脈管侵襲部、浸潤先進部の腫瘍細胞に発現が高いということはなかった。 MMP7と血管新生の関係を調べるうえで文献的に検索に挙がったSTAT3およびマクロファージスカベンジャーレセプターであるMSR1を免疫組織化学的に観察した。STAT3に関しては、数種類の抗体を購入し免疫組織化学染色を試みたが、有意な染色と判定される像は得られなかった。MSR1は腫瘍胞巣周囲に多く陽性細胞をみとめた。発現分布として、浸潤先進部に陽性細胞が多く分布するタイプ、腫瘍の中にも陽性細胞が入り仕込み表層から浸潤先進部まで一様に分布するタイプ、拡張した腺管の破綻部周囲の肉芽形成領域に集簇するタイプ、全体として発現細胞が少ないタイプと4タイプに分かれた。
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