平成28年度はGR 発現によるアンドロゲン非存在下での前立腺癌細胞の生存・増殖に対する影響に関する検討を中心に検討した。米国Memorial Sloan-Kettering Cancer Center(MSKCC)のグループからGRによる抗アンドロゲン療法耐性機構に関する報告(Cell 155:1309)に対する検討も加えた。 前立腺癌細胞株LNCapはチャコール処理胎児ウシ血清下で増殖とアンドロゲン受容体(AR)標的遺伝子PSA発現が抑制される。アンドロゲン、グルココルチコイド(DEX)およびエストロゲン添加はいずれも細胞増殖とPSA発現を誘導するが、DEXが最も強力であった。一方DEXはGR発現を抑制し、ネガティブフィードバックが存在している可能性が示された。LNCapにおいてshRNAによるGR発現抑制クローンの樹立はできなかった。MSKCCの報告ではshRNAによるGR発現抑制には異なる細胞株を用いており、LNCapの増殖にはGR発現が必須である可能性がある。また恒常的GR発現LNCap細胞の除睾マウスへの生着に関して匹数を増やして再現性を検討した。GRを恒常的に発現するLNCapは除睾マウスで腫瘍形成を示すことは確認できたが、その増殖は極めて緩徐であり、移植後10週より腫瘍サイズは減少した。この原因として1)血清中グルココルチコイド濃度、2)GR発現へのネガティブフィードバック、3)GR単独ではARの機能を完全には相補できない、などの可能性が示唆された。免疫組織学的に、ヒト前立腺癌におけるGR発現頻度は10%でMSKCCの報告と同等であったが、抗アンドロゲン治療後での陽性頻度上昇は認められず、50%以上の前立腺癌組織でGR発現が認めたMSKCCの報告とは異なった。これは抗アンドロゲン薬や対象臓器(原発巣と転移巣)の違いなどが関係している可能性が考えられた。
|