研究実績の概要 |
本研究の目的は,性の分化異常症の性腺の形態学的解析を通して,その病理診断と悪性腫瘍発症のメカニズムを解明することであった。 性の分化異常を示す疾患(男性仮性半陰陽および真性半陰陽)を対象に末梢血(胚細胞レベル)で遺伝子検索 (WT1, NR5A1, StAR)および染色体核型のスクリーニングを行った。WT1, NR5A1, StAR の変異の見つかった症例の性腺を形態学的および免疫組織化学的に検索した。これら3つの遺伝子異常のうち,臨床症状だけでは診断が困難であるNR5A1異常症において,性腺組織の中に診断の決め手となる特異的な病理組織所見を明らかにした。 混合性性腺形成異常症(染色体の基本核型 46XY/45X)において,X, Y染色体をFISH法による二重染色法を用いた45X細胞の検出法を報告した。また,真性半陰陽(染色体の核型 46XY/46XX)に特異的な性腺の組織所見である卵精巣をFISH法で同様に解析し,性腺組織内で性の逆転が起きている(精巣組織内に46XX細胞,卵巣組織内46XYが見られる)こと始めて明らかにした。 性腺からの悪性腫瘍は発生する頻度が高いされるDenys-Drash症候群 (WT1遺伝子変異) 5症例および混合性性腺形成異常35症例の計40症例の性腺組織の形態,性腺のリネージ (SOX9, FOXL2),胚細胞の成熟度 (OCT3/4, CD117) ,および腫瘍化の有無を免疫組織化学法により解析・評価した。胚細胞の成熟に伴うOCT3/4の発現の消失は,性腺組織の退縮(索状性腺)に関連していた。腫瘍発症の基盤となる未分化性腺組織 や性腺芽腫の発生は観察されたが,実際に癌化していた症例は皆無であった。 社会的な性の早期決定に有用な病理診断法を開発した。また,本研究から性腺の胚細胞腫瘍発症のリスクは実際には低いことが予想され,過度な治療が懸念された。
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