研究実績の概要 |
原発性肺腺癌において、CADM1は腫瘍抑制因子として知られ、上皮内腺癌成分では発現は保たれているが、浸潤巣ではCADM1の欠如が認められ、かつ、TTF-1,CK7, MUC1などの気管支上皮マーカーとCADM1との間に有意な相関性も認められている。しかし、肺腺癌細胞株40株での遺伝子発現を比較したところ、CADM1の高発現を示す細胞株は、むしろ、間葉系の性質を有し、気管支上皮マーカーの発現が失われたものが多く、原発性肺腺癌での結果と大きく食い違った。細胞株として樹立しうるような高悪性度な浸潤性腺癌の中に、例外的にCADM1を高発現している一群が存在する可能性が示唆された。40株の肺線癌細胞株の遺伝子発現データをもとに、CADM1の発現と相関性の高い遺伝子を抽出し、その中で、RAP1のGEFであるRAPGEF2に着目し、CADM1を高発現する肺腺癌における、その役割について検討した。RAPGEF2,CADM1を高発現する肺腺癌細胞株H1838を用いて、CADM1, RAPGEF2に対するSiRNAを使い、RAP1 activity assay、Transwell migration assayをおこなった。その結果、RAPGEF2はRAP1活性と癌の浸潤能を促進することがわかった。また、RAPGEF2の発現がない場合、CADM1は癌のRAP1活性や浸潤能を抑制するが、RAPGEF2存在下では、CADM1はRAP1活性も浸潤能も抑制できないことがわかった。原発性肺腺癌症例を用いて、RAPGEF2,CADM1の免疫染色を行ったところ、RAPGEF2陽性、CADM1陽性の肺腺癌は低分化腺癌であり、予後不良な一群であることが示された。
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