研究課題
CADM1は肺腺癌の重要な腫瘍抑制遺伝子であり、EMTを抑制し、上皮内腺癌では発現が保たれ、浸潤癌では発現は失われる。肺腺癌40株のマイクロアレイのデータをもとに、CADM1遺伝子発現を比較したところ、40株中31株でCADM1の発現はほぼなかったが、意外なことに、CADM1の過剰発現は、「気管支上皮型」(9%(2/22))よりも、EMT形質を有する「非気管支上皮型」(39%(7/18))で高頻度にみられた。細胞株として樹立されるような高悪性度な肺腺癌でCADM1発現を保っている原因を追求した。肺腺癌細胞株40株のマイクロアレイのデータをもとに、CADM1発現と相関性の高い遺伝子を検討した結果、RAS-associated protein (RAP)のグアニン・ヌクレオチド交換因子(GEF)であるRAPGEF2がCADM1陽性肺腺癌細胞株で高発現していることが分かった。肺腺癌細胞株H1838を用いて、SiRNAによるCADM1, RAPGEF2のノックダウン、RAP1活性アッセイ、Transwell migration assayを行った。RAPGEF2のノックダウンによって、RAP1の活性は抑制され、かつ、細胞株のMigrationが抑制されるが、RAPGEF2とCADM1を同時にノックアウトすると、RAP1の活性と細胞株のMigrationが回復することがわかった。以上のことから、CADM1はRAP1を抑制することで腫瘍抑制的に働くのに対し、RAPGEF2はCADM1によるRAP1抑制能を抑制することが考えられた。原発性肺腺癌症例133例のCADM1、RAPGEF2の染色を行ったところ、CADM1陰性症例ではRAPGEF2の発現の有無は予後に差がないが、CADM1陽性例ではRAPGEF2の発現が低いと予後不良であり、細胞株の結果と矛盾しない結果であった。
2: おおむね順調に進展している
Adult T-cell leukemiaにおいて、CADM1とTIAM1(RACのGef)との結合により悪性形質を獲得することが報告されている。同様に、ある種の高悪性度の肺腺癌では、CADM1は、RAPGEF2と結合することで、CADM1そのものが、Maiglnant progressionを促すのではないか、との仮説ではじめた研究であったが、実際には、細胞株を使ったSiRNAによるノックダウン実験では、CADM1は腫瘍抑制的に働くことが示され、その点は予測とは異なるものであった。しかしながら、CADM1がRAP1活性を抑制すること、さらに、RAPGEF2がCADM1によるRAP1活性抑制を抑えることなど、新たな知見も得られ、原発性肺腺癌の免疫染色の結果も、矛盾しない結果であり、おおむね順調に進展したと考えている。
肺癌において、CADM1が腫瘍抑制的に働く詳細な機序については、十分に解明されているとは言い難い。CADM1がRAP1の活性を抑制することでMigrationを抑制する、というのは新たな知見であるが、さらに、RAPGEF2、CADM1陰性の肺腺癌細胞株を用いて、RAPGEF2,CADM1の遺伝子導入実験を行い、RAPGE2,CADM1,RAPの役割について検討していく。また、現在、CADM1がContact inhibitionを担うシグナル伝達系であるHippo pathwayを介して、腫瘍抑制に働く可能性について検討していく予定である。
細胞株の購入などを検討していたが、東京大学医科学研究所から自治医大に異動となったため、細胞株を用いた研究の開始が遅延したため。
肺癌細胞株(小細胞癌、腺癌)を購入予定である。また、これまで、CADM1、RAPGEF2のノックダウンを行っているが、CADM1,RAPGEF2の遺伝子導入実験なども行う予定であり、そのための試薬を購入する予定である。H27年度の研究計画がH28年度にずれ込むが、迅速に研究を展開することで当初目標を達成できる。また、現時点での研究内容をまとめてCancer Science誌に投稿予定である。
すべて 2015 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 謝辞記載あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件) 備考 (1件)
Pathology international
巻: 35 ページ: 595-602
10.1111/pin.12350
BMC Cancer
巻: 15 ページ: 1-12
10.1186/s12885-015-1065-8
http://www.jichi.ac.jp/pathol/