研究課題
基盤研究(C)
成人T細胞白血病・リンパ腫(ATLL)の発症機構をDNAメチル化状態、ヒストン修飾状態、miRNA発現、ポリコーム遺伝子群、クロマチン構造変換等エピジェネテイック異常の観点から患者検体・培養細胞・動物モデル等を用いて解析した。その結果ポリコーム遺伝子群、ヒストン修飾状態については広範な悪性リンパ腫・白血病の患者検体を用いnon-Hodgikinリンパ腫における異常発現プロファイルを明らかにした。さらに培養細胞を用いて解析を行い、Ezh2, Ezh1, Eed, Suz12,Bmi1をはじめとするポリコーム蛋白群の発現異常を解析し、反応性リンパ節および正常末梢血単核球においてPRC1.4がPRC1.2とほぼ同等にバランスを持ち発現しているのに対しATLLをはじめ各種の悪性リンパ腫においてPRC1.4の発現はPRC1.2の発現に対し大きく偏りが生じていることが明らかとなった。このことはPRC1の下流遺伝子の発現に大きな影響を及ぼすことが推測され腫瘍化との関連が強く示唆された。またATLにおけるmiRNA発現の網羅的解析より特に異常発現をするmiRNAを同定し患者検体でそのことの確認をし、miRNA異常発現のATL 発症・進展における役割の解析について重要な手がかりを得た。HTLV-I ウイルス遺伝子発現のON/OFF がコントロールできる実験系において生きた細胞のDNA メチル化レベルを定量的に計測するシステムの開発に成功した。この系を用いDNA異常メチル化をlive cell imagingの手法及びFACS解析を用いて解析し細胞周期変動に応じたDNA メチル化レベルの変動及びメチル化パターンの変化の検出に成功した。その結果HTLV-Iウイルス遺伝子産物とりわけtaxが異常DNAメチル化に深く関与していることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
当初予定していたlive cell imagingシステム確立の他にATLL発症の各種段階の異常メチル化の解析を可能とするモデル細胞群の樹立に成功したこと、悪性リンパ腫に於けるポリコーム蛋白群の発現異常を明らかにしたこと、更にこの現象がATLLにとどまらず広範な悪性リンパ腫/白血病においても認められることにより今後この分野の研究が飛躍的に進むことが期待される。
live cell imagingシステムを用いて生きた状態でどのような環境の変化が病的な状態を誘導するのかダイナミックな解析が可能となった。網羅的解析で明らかとなったキーとなる分子の動きと関連させながら細胞内環境及び細胞外環境の変化に応答するクロマチンの状態変化、異常メチル化の動的変化などダイナミックな調節機構の解析を進めて行く。ATLLの培養細胞を用いHTLV-I感染不死化細胞(キャリアー状態に相当する)、ATLL前白血病細胞とATLL白血病細胞の違いついて特にDNAメチル化、miRNAなどエピジェネテイックな観点から解析する。マイクロアレイによる特定のターゲットのDNAメチル化と腫瘍化との関連、どのような条件でCIMP(+)となりmalignant transformationをするのか解析する。過酸化水素(H2O2)処理により人工的に細胞のDNAに障害を与えその際に起こるDNA修復過程におけるDNMT1, 3a,3bなどのDNAメチル化酵素、PRC1及び2(Polycomb repressive complex)等の動的変化を解析する。同時にDNAメチル化細胞イメージング法を用いてDNAメチル化の動的変化を解析する。またDNA microarray、DNAメチル化アレイの解析を行い細胞全体の変化を網羅的に解析する。この系でウイルス癌遺伝子発現ONにし異常DNAメチル化誘導への影響を検討する。
予定していたものが既存のもので使用可能であることが判明したため少額の次年度使用額が生じた。未使用額と本年度請求額を合わせ研究に必要な消耗品の購入に当てる予定である。
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