研究課題
がんの悪性度を規定する分子基盤を明らかにすることは、がんの進展機構を解明する上で、また新規の分子標的療法の開発につながる重要な研究案件である。本研究の目的は、その分子基盤の一端を明らかにすることである。申請者らは、これまでにKRAS変異を伴い且つ高増殖活性を示す肺腺癌の術後再発率が特に高いことを明らかにし、またマイクロアレイを用いたKRAS下流分子の網羅的発現解析から、このような高悪性度肺腺癌の成り立ちに関わる複数の分子種を同定し報告してきた。この成績は、KRAS下流分子の検索が、高悪性度肺腺癌の分子基盤を追求する上で優れた戦略であることを示していた。報告者らは、更にプロテオーム解析を追加し、従来の解析では同定できなかったKRAS下流分子を既に網羅している。それらのうち、S100A2とS100A11蛋白質は、KRAS下流で高発現を示し、特に興味が持たれた。申請課題では、研究期間内に肺腺癌切除材料を用いてS100A2/S100A11蛋白質の発現解析、および予後との相関関係、また肺腺癌細胞株を用いた細胞生物学的な機能解析を行い、S100A2/S100A11蛋白質の、KRAS変異・高増殖活性型肺腺癌における分子病理学的特性への関与を明らかにすることを目標とした。当該年度では、StageI肺腺癌179例におけるS100A2/S100A11発現レベルと、KRAS変異/増殖活性との間で相関解析を行った。その結果、S100A11発現レベルは、KRAS変異あり/高増殖活性群において、有意に高い値を示した(P=0.038)。これは、S100A11が、KRAS変異を伴い且つ高い増殖活性を示す予後不良な腺癌の一群において、高悪性度を規定する分子基盤の一部を担っている可能性を示唆した。この結果は、国際誌へも投稿され、掲載された(WOO T, et al. PLos One 2015)。
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Histology and Histopathology
巻: 31 ページ: e11721
10.14670/HH-11-721
PLoS One
巻: 10 ページ: e0142642
10.1371/journal.pone.0142642