今年度に予定していた、腺腫と癌成分の両方を含む腫瘍を集めたvalidation setによる検討は、該当する症例が十分集らず、進んでいないが、リンパ節転移リスクを予知できるかどうかについては、これまで蓄積してきたアレイCGHデータ(転移陰性(N0)症例16症例24サンプル、リンパ節転移陽性(N+)症例20症例64サンプル)を解析し、一定の結論を得た。まず、サンプル間で全ゲノム領域のコピー数プロファイル(CNP)の類似性をみるために、これまで行ってきた、サイズの大きな遺伝子によるunsupervised clusteringを行ったところ、2つのクラスタに別れたが、その間でN0とN+の割合に有意差がなかった。今回新たに14259の蛋白質コード遺伝子のCNPを比較すると、分かれた2クラスタの片方がほぼN+サンプルから構成され、クラスタ間に有意差が出た。次にこれらの内、N0とN+の2群間でコピー数に有意差のあった131遺伝子を抽出してクラスタリングを行い、転移リンパ節のサンプルをほとんど含まないクラスタが分離できたが、このクラスタには、N+症例の原発巣が6例含まれており、N0とN+の分離はできなかった。この抽出遺伝子によるクラスタリングでは、転移巣と原発巣のCNPがかなり異なる(原発巣になかった遺伝子コピー数変化が転移巣で付加的に起きていた)ものが先ほどの6例を含めて12例(60%)存在した。 その標的として数個の遺伝子が絞られた。これらのことから、転移リスクの高さは、系譜として決まっているのではなく、late eventとして起こる特定の遺伝子変化によって確率的に決まっていると考えられた。今回用いた蛋白質コード遺伝子によるクラスタリングは転移能などの機能との関連づけには有効であるが、unsupervised clusteringによる系譜解析と併用する必要があることが分かった。
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