研究課題/領域番号 |
25460457
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
堺 明子 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (60205698)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | エキソソーム / microRNA / 血漿 / がん |
研究実績の概要 |
がん細胞から放出されるexosome(エキソソーム;分泌膜小胞)は、血流に乗って遠隔組織に取り込まれ、取り込まれた先の微小環境を変化させてがんの転移を促進する。この細胞間コミュニケーションには、exosomeに内包されたmiRNAが主に働く。 exosomeによる遠隔転移能を評価するため、早期発見が難しく転移しやすい膵がんについて、血漿中のmiRNAの発現変化を調べた。まず、膵がん患者血漿から抽出したmiRNAをマイクロアレイ解析(東レ3D-Gene)によってスクリーニングし、膵がん特異的に発現が変化したmiRNAを選択してリアルタイムPCRで検証した。ところがマイクロアレイ解析の結果とリアルタイムPCRの結果の一致率が予想以上に低く、膵がん特異的なmiRNAを簡単には特定することができなかった。 そこで、がん特異的miRNA発現の検証作業と並行して、血漿miRNA定量の標準化についての検討を試みた。マイクロアレイ解析では全miRNAの発現量の平均値をreferenceとして用いるが、限定した数のmiRNAのリアルタイムPCRでは、発現量の安定したmiRNAを内部標準として用いるのが一般的である。今回、血漿miRNAとしては安定して検出されるhsa-miR-103、hsa-miR-191、hsa-miR-423-3pに加えて、血漿DNAの定量もおこない、それぞれの発現量にある程度の相関性があることを確認した。現在、定量サンプル数を増やし、統計的に十分に有意な相関性が得られるかどうかを確認中である。 なお、マイクロアレイとリアルタイムPCRの結果の差については、実験ミスやローカルな問題ではなく、普遍的な事象であることが判明している。その要因としては、検出原理や解析アルゴリズム、標準化手法の違い、更には個々のmiRNA配列自身の影響など、複数の要素が指摘されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成25年には血漿exosome抽出定量条件を決定し、平成26年には健常者とがん患者の比較のためmiRNAのマイクロアレイ解析をおこなった。平成27年度には、膵がん特異的に発現変動するmiRNAについて、がんの遠隔転移との関係の基礎的検証を行う予定だったが、候補miRNAの絞り込みが難しく、ウェット、ドライの両面から、さまざまな解析方法を検討した。 これは、研究計画時には判明していなかった、解析プラットフォーム間の差が原因となっているものである。最近の報告で、大規模かつ緻密な比較実験をおこなった結果、マイクロアレイ、リアルタイムPCR、次世代シークエンスによる定量解析結果が完全に一致することはないと結論づけられている(Tam, S., et al., Robust global microRNA expression profiling using next-generation sequencing technologies. Lab Invest 94, (2014)など)。解析対象が臨床サンプルの場合、とりわけ体液(血液、尿、唾液等)においては、バックグラウンドの多様性を映して、miRNA定量の標準化はさらに難しいと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
進捗状況に記した通り、現状で使用可能なプラットフォームの利点を最大限に活かして、がんのマーカーとしての可能性があるmiRNAを選択し、exosomeによる転移の機構との関連の解明を試みる。 また、ウェットでの検証だけでなく、公開されているmiRNA発現のデータセットを活用して、in silico解析からも選択miRNAの妥当性を検証していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
血漿miRNAのリアルタイムPCR定量そのものについては非常に高い再現性が認められ、内部標準についても信頼性の高い解析方法の検討を進めたにもかかわらず、最初のマイクロアレイ解析の結果とは、必ずしも一致しなかった。この、研究当初には判明していなかった要因、すなわち解析プラットフォームの検出原理およびアルゴリズムの違いによる発現評価のずれにより、候補miRNAの特定が難しく、細胞株などを使用しての機能検証実験にまで至らなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
exosomeによる情報伝達機能解析に必要な試薬・キット類を購入し、がん関連miRNA候補を検証するための解析実験に使用する。
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