研究課題
基盤研究(C)
現在、乳癌の薬物療法は癌細胞の発現している物質によって選択されている。具体的にはホルモンレセプター(エストロゲンレセプターおよびプロゲステロンレセプター)を発現しているものに対してはホルモン療法が、HER2遺伝子の過剰発現が認められるものに対しては分子標的薬であるトラスツズマブが選択される。しかしホルモンレセプターもHER2遺伝子の過剰発現も認めないトリプルネガティブ乳癌(TNBC)は従来の化学療法剤しか適応がなく、TNBCに特異的に効果のある薬剤の開発が望まれている。我々は外科的切除された乳癌組織を用いてアレイCGH解析を行い、TNBCで特異的にみられるゲノム変化を発見した。本研究ではこの特異的な変化を示すゲノム領域にコードされている遺伝子Aに注目し、その遺伝子産物(物質A)のTNBCの増殖に対する影響を検討している。25年度はTNBC由来培養細胞株を含む8種類の乳癌由来培養細胞株を用いて物質Aの細胞増殖に対する影響を増殖曲線を描くことによって検討した。結果5種類の細胞株で細胞増殖抑制効果が確認できた。細胞増殖抑制効果の見られた細胞についてはイメージサイトメトリーを用いた細胞周期解析および細胞周期関連タンパク発現レベル解析を行ったところ、2種類の細胞株で細胞周期の変化が確認できた。ただ細胞周期の変化のパターンは2者で異なっており、物質Aが異なる機序で細胞増殖抑制効果を示すことが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
25年度の主な目標は、①14q15領域にコードされている候補遺伝子Aの遺伝子産物(以下物質A)のトリプルネガティブ乳癌(以下TNBC)および非トリプルネガティブ乳癌由来の培養細胞の増殖に対する影響を検討すること、②物質Aが細胞増殖抑制効果を示した培養細胞の細胞周期にどのような影響を与えるかを明らかにすることであった。①に関してはTNBC由来培養細胞を含む乳癌培養細胞株8種類を用いて検討し、うち5種類において細胞増殖抑制効果を確認することができた。②に関しても細胞増殖抑制の見られた5種類の細胞株について細胞周期解析および細胞周期に関連するタンパク質の発現レベルをイメージサイトメトリーを用いて検討し、2種類のTNBC由来培養細胞株に対して物質Aが異なった機序で細胞増殖抑制に働くことを示唆する結果が得られた。以上より、本年度目標はほぼ達成され、研究は順調に進展していると考える。
26年度も引き続き未検討の培養細胞を用いて物質Aの細胞増殖に対する影響を検討する。それと同時に物質Aの細胞増殖抑制のメカニズムを明らかにするために、細胞周期関連タンパクだけでなく、物質Aが関与するシグナル伝達系タンパクの発現およびリン酸化状態についてもおもにイメージサイトメトリー解析によって検討を進める。25年度は増殖抑制の見られた培養細胞株のみでの検討であったが、26年度は細胞増殖に変化の認められなかった培養細胞株についても同様に検討を進める。
当初人件費を計上する予定であったが実験補助員を雇用しなかったため人件費、謝金が0となってしまった。物品費については比較的早い段階で細胞増殖抑制効果を示す結果が得られたため、当初予定としていた量よりも培養関係試薬、物質A試薬、抗体等が少量で済んだため次年度使用額が生じた。人件費については当初の26年度分として請求した分のままとするが、25年度の検討で物質Aの細胞増殖抑制効果のメカニズムが1種類ではない可能性が示されたため、当初の予定より多種類の抗体をはじめとする細胞周期解析用試薬の購入が必要になっており、それに充てることとする。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (2件)
日本臨床検査医学会誌
巻: 61 ページ: 1001-1007
J Histochem Cytochem
巻: 61 ページ: 699-705
10.1369/0022155413498754.Epub 2013 Jul 4
Cell Prolif.
巻: 46 ページ: 356-363
10.1111/cpr.12032
Tumor Biol
巻: 34 ページ: 947-952
10.1007/s13277-012-0630-x. Epub 2012 Dec 30