研究課題/領域番号 |
25460467
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 川崎医科大学 |
研究代表者 |
森谷 卓也 川崎医科大学, 医学部, 教授 (00230160)
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研究分担者 |
紅林 淳一 川崎医科大学, 医学部, 准教授 (10248255)
鈴木 貴 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (10261629)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 病理学 / 乳癌 / 浸潤 / 免疫組織染色 / 人体病理学 / 診断病理学 |
研究概要 |
浸潤径5mm以下の初期浸潤性乳癌265例(平均年齢57歳、全例女性)を収集し解析した。これらの症例の中には、多発癌(同時または異時性、同側多発または両側発生)が23例 (8.7%)含まれていた。また、同一病巣内に乳管内癌を介する多発浸潤巣を認めたのは43例(16.3%)と高頻度であった。浸潤巣は多くが浸潤性乳管癌・通常型だが、特殊型は22例(8.3%)で、粘液癌10例、浸潤性微小乳頭癌7例、浸潤性小葉癌3例、アポクリン癌2例が見られた。3例は被包型乳頭状癌に付随した浸潤巣であった。リンパ節転移は検索224症例中24例(10.7%)に存在し、そのほとんどが0.2mm未満のITC(isolated tumor cells)または2mm未満の微小転移巣であった。内因性サブタイプ別にはLuminal A型166例(62.6%)、Luminal B型36例(13.8%)、HER2型29例(10.9%)、トリプルネガティブ型29例(10.9%)で、通常型浸潤性乳癌でみられる分布と差はなかった。以前の検討で、非浸潤性乳管癌においてはLuminal 型がより多く、トリプルネガティブ型が少ない傾向を認めたが、初期浸潤の段階ですでに通常の浸潤癌と同じ症例分布を示していることを確認した。 次に、病理診断のコンサルテーションを受けた乳管内乳頭状病変(乳頭腫、非浸潤性乳管癌、一部に浸潤癌成分を有する乳頭腺管癌)について、HE染色標本1枚を抽出し、バーチャルスライド化して、10名の乳腺領域を専門とするボランティア病理専門医に観察を依頼したところ、非浸潤性乳管癌9例のうち7例でいずれか1名以上が浸潤癌ないしその疑いと判定、一方、乳頭腺管癌3例では浸潤なしと判断した医師はそれぞれ2、4、4名であった。初期浸潤に関するHE染色での形態診断には限界があり、より客観的な判定法を構築することが必要と考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度は、症例の収集のための標本の抽出・見直しを行い、データベース化を諮るのに、予想以上の時間を要した。川崎医科大学附属病院における手術症例のみでは解析に不十分と考えられたため、川崎医科大学・同附属病院倫理委員会の承認を得た上で、北福島医療センターと東北公済病院に依頼し、症例を追加した。病理組織診断時の標本全てを再度観察し、最終的に3施設で265例の初期浸潤癌データベースを構築することができた。しかし、この作業に時間を要し、当初の予定であった浸潤巣の免疫組織学的検討、ならびに3次元立体構築の検討の開始にまでは至ることができなかった。 しかし、この間、コンサルテーション症例を用いた病理組織診断の精度管理検討を実施し、初期浸潤巣の病理組織診断の判定においては、病理専門医同士のコンセンサスが得られにくい症例が存在し、より客観的な判定法が確立されていないという問題が残されることも明らかになった。この点も踏まえ、初期浸潤の病理診断を、免疫組織染色の併用を含めた新しい判定基準を用いて診断し、そのための診断樹を構築することの必要性も明らかになった。 以上、当初の計画に関する進捗は十分とはいえないが、反面初期浸潤癌の病理診断に関する多彩性と診断クライテリアの問題点を明らかにすることができたので、次年度以降につながる成果はある程度得られたものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
病理組織学的に、新たに染色を追加し検索を行うための症例・および標本データベースができあがったので、今後は免疫組織学的手法を用いて、癌細胞自体あるいは周囲間質反応に関わるマーカーを用いた免疫組織染色を追加して検討を進めるようにしたい。また、初期浸潤の様子をダイナミックに観察するための三次元立体構築の検索は必須と思われる。初回申請時に想定していたもの以外にも検索用のパソコンソフトが開発されているので、それらの有用性についてなるべく早期に確認し、最も適切な方法で検索を進めるように努力したい。また、診断のためにより有用な免疫組織染色マーカーの検討を進め、有効な判定法の確立、ならびに初期浸潤癌における転移予測因子の探索に努めたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度に消耗品として、抗血清を含む免疫組織染色マーカーの購入を行った。またハイブリダイゼーションシステムを導入したので、これについても染色用試薬を整えて研究を進める必要がある。また、立体構築検索のためのソフトウエアが新たに開発された場合には、それらの調査した上で、購入を考量する可能性がある。 免疫組織染色については、研究計画にあるが未購入のもの、および新たに開発されたものも含め抗血清と、それに付随する二次抗体、染色用プレパラート等の消耗品を新規購入して、染色を行う予定である。また、資料収集、研究打ち合わせ、学会への成果報告のために、国内旅費を使用する。
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