研究概要 |
Ink4a/Arf KOマウス及びInk4a/Arf KO/SS18-SSX1 TG (以下KO/TG)マウスの大腿骨から骨髄細胞を分離し継代培養を行った. 陰性対照のInk4a/Arfヘテロマウス由来の骨髄細胞は概ね10継代前後で細胞老化に陥り増殖を停止したが, KO及びKO/TGマウス由来の骨髄細胞は20継代を経ても増殖能を維持しており, 計4匹由来の充分に継代を経た骨髄間葉系細胞株 (KO: 4L, 7L, KO/TG: 16R, 18L)を樹立した. 得られた上記細胞株を4時間トリプシン処理し, その後メチルセルロース上で培養する事でsphereを形成させ、pick upする事でMuse細胞の樹立を行った (以下4L-M, 7L-M, 16R-M, 18L-M). KO/TG由来とKO由来のMSC及びMuse細胞の増殖能, コロニー形成能を比較解析した所,有意な差は見られず, TG由来細胞のSS18-SSX1の発現量を調べた結果, mRNAレベルでの発現は見られるものの, タンパクレベルでの発現は検出感度以下であった. 悪性形質転換を来すのに十分な発現誘導がかかっていないことが考えられたため以降は4L, 7L, 4L-M, 7L-Mにレトロウィルスを用いてSS18-SSXを導入し解析を行った所, いずれのラインにおいてもSS18-SSXを過剰発現すると細胞老化が惹起され増殖停止に陥ることが判明した. ウィルスを段階的に希釈し発現量の調整を試みた所, 細胞老化は回避されたが, いずれもSS18-SSXの発現が低く悪性形質転換を来していなかった. さらに低発現クローンに複数回SS18-SSXの導入を行ったクローンでは, SS18-SSXの発現量の上昇は見られたものの, 陰性対照に比して細胞増殖能, コロニー形成能の有意な上昇を認めなかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成25年度の計画に沿って研究を遂行した結果, KO及びKO/TGマウスからモデル細胞の基盤となる不死化骨髄間葉系細胞, 不死化Muse細胞を樹立した. またレトロウィルスを用いたSS18-SSXの導入プロトコールを確立し, 悪性形質転換を評価する系である細胞増殖能, コロニー形成能の比較解析に関しても再現性の観点等から妥当な実験系の確立を達成した. しかしながら予備実験で明らかとなったヒト不死化間葉系幹細胞の結果とは異なり, SS18-SSXの過剰発現は予想外の細胞老化を惹起し, 悪性形質転換を来さない事が明らかとなった. 原因としては導入細胞の種差, 起源細胞の分化状態, 適切なSS18-SSXの発現量などが考えられる. そのため現状では研究計画に若干の遅延を生じているが, 本研究課題の目的である滑膜肉腫幹細胞の性状解明とそれに伴う新規治療法の創出を目指すために後述する方策を施行する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
SS18-SSXの適切な発現量の調節, 起源細胞の分化状態の調節の両者を行うために, MSCよりも未分化な状態であることが推定されるMuse細胞, 神経堤幹細胞 (NCSC)を用いてTet-offシステムを用いた誘導性SS18-SSX発現細胞の樹立を試みる. 樹立後は特殊培地により起源細胞候補である神経系, 筋系細胞への分化を誘導すると共にドキシサイクリンを培地から除去する事で, 各分化段階を模倣した状況でのSS18-SSX発現誘導を行い悪性形質転換の有無を評価する. 同法にて悪性形質転換体を樹立できた場合は当初の研究計画に則りその後の解析を遂行する. 悪性形質転換の有無がヒトとマウス由来の細胞起源, 種差に起因する場合を考慮して, 上記方策と並行してヒト滑膜肉腫細胞株の幹細胞培養系を用いたヒト滑膜肉腫幹細胞の性状解析を行う. 近年の報告ではSS18-SSXはSWI/SNFクロマチンリモデリング複合体やポリコーム複合体, ヒストン脱アセチル化複合体と結合し, エピジェネティックな転写制御をかく乱する事がその機能の実態であることが解明されつつあるが, この機能と腫瘍幹細胞性との関連については未だ不明である. 我々の予備検討では滑膜肉腫細胞株であるSYO-1, FUJIにおいてスフィア形成群では非形成群に比してSS18, SS18-SSX2の発現量が有意に上昇し, BAF47, BRG1等のSWI/SNF複合体の構成サブユニットの発現量にも影響を及ぼす可能性が示唆されている. そのためエピジェネティックな転写制御におけるSS18-SSX2の滑膜肉腫幹細胞特異的な影響を解析する事で, 幹細胞性の制御機構の解明を目指す予定である.
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