認知症モデルマウスより抽出した神経幹細胞(昨年度に実施)に、LPAを投与する事で、増殖を促す事が可能であった。 しかし、この結果から以下の考察を行った。 ①アルツハイマー認知症患者では、剖険例でも末期まで神経幹細胞が脳内に存在する事、②存在しているにも関わらず、最終的に海馬の神経退縮が患者で見られるのは、通常健常者海馬で見られる神経再生能(神経幹細胞からの神経細胞誘導)が不足している事か、もしくは、タウやアミロイドが原因の神経退化が強い事、の2つ結果のうちのどちらかが、最終的に海馬神経細胞の退縮に強く寄与している可能性がある。③神経退化を抑制する方法での実際のヒト臨床研究の成果が芳しくない。 以上を統合的に判断し、LPAシグナルを阻害する事で(神経幹細胞を増加させる目的ではなく、)、神経幹細胞からの神経細胞産生および誘導を活発化させ、結果として、海馬の神経退縮を抑制する治療法を選択した。 具体的にはLPA1-3の阻害薬である、Ki16425を12か月齢メスモデルマウスへ2か月間継続投与し、その後の行動機能評価を行った。また、脳内神経幹細胞の動態を把握できるように同時にEdUの継続投与も行い、行動評価終了後、全例の脳サンプルを作製した(現在は全脳切片の解析中である)。行動解析では、Ki16425投与群において、約20%の記憶保持能(水迷路にて目的エリアの保続時間の増加)の向上が見られたことより、上記仮説②における前半部分(神経再生能の不足)が認知症発症の大きな要因である可能性を見出せた。 Ki16425投与マウスにおける有害事象も特になかった為(投与による、毛艶の変化、体重変化、マウス死亡等なし、その他は解析中)、LPA阻害薬であるKi16425は、認知症患者投与においても、今までの認知症治療薬とは全く機序の異なった、有力な新規治療薬となり得る可能性が高い。今後は研究の継続を行い、長期投与による認知機能改善状態を評価したい。
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