申請者はHSCが高度に純化されたマウス骨髄CD150+CD48-Lin-Sca-1+c-kit+分画をc-kit発現強度により細分し、G0期HSCがc-kit低発現分画 (c-kitlow)に高度に濃縮されていることを明らかにしてきた。このc-kitlow細胞の特性のさらなる解明を行い、幹細胞性維持・制御に関与する因子の同定を試みている。in vivoにおいて、c-kitlow細胞とc-kit高発現分画 (c-kithigh)細胞分画に質的差異が存在するかどうか明らかとするため、マウスにBrdU (Bromodeoxyuridine)を10日間投与し、経時的に骨髄中の造血幹胞分画を解析したが、BrdU標識の減衰割合とc-kit発現強度の間に関連性は認められなかった。この結果を検証するため、BrdUに代わりビオチンを投与し、膜表面に結合したビオチンの細胞分裂による減衰を計測することとした。検出感度の違いから、ビオチン投与後の観察可能期間はBrdU投与後のそれより短いが、BrdU投与実験同様に、ビオチン陽性率の経時的変化は、c-kitlow細胞とc-kithigh細胞の間に差異は認められなかった。このことから、c-kitlow細胞およびc-kithigh細胞はin vivoにおいてそれぞれ常にc-kitlowあるいはc-kithighであるのではなく、マウス造血幹細胞分画において細胞表面上のc-kit発現は変動し得ることを示唆していると考えられた。c-kitlow細胞とc-kithigh細胞のDNAアレイデータを作成し比較すると、細胞周期の違いに反映されていると考えられる一連の遺伝子発現の相違に加え、転写、リン酸化、代謝等の遺伝子群の発現に相違が認められ、両細胞群の遺伝子発現には質的相違があると考えられた。従って、c-kitlow細胞およびc-kithigh細胞は生体内において定常状態にあるのではなく、遺伝子レベル、蛋白レベルにおいて常に変動していることが示唆された。
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