研究課題
I. ヒト癌細胞のC5a放出作用解明株化癌細胞がヒトC5からC5a遊離とこのC5aによるC5a受容体(C5aR)発現癌細胞の浸潤亢進作用を証明した。癌細胞が遊離した癌細胞のC5a遊離作用はアプロチニンとdRVKR-cmkで抑制されたので、kexin様の基質特異性をもつセリンプロテアーゼのC5a遊離への関与が解った。C5が生理的に存在する血漿からの癌細胞のC5a遊離作用は癌微小環境でのC5a産生を示唆し、C5aが癌を進展させる因子として重要であることが提示された。II. 腎癌におけるC5a-C5a受容体系の作用解明免疫染色でC5aR発現を調べると、ヒト転移性腎癌では96.7%が発現しており非転移腎癌の50.5%に比べきわめて高い頻度であった。昨年度作製したC5aR発現マウス腎癌細胞株Renca/C5aRはC5a刺激により細胞形態のダイナミックな変化をおこし、シグナル伝達系ERKとPI3Kに依存した浸潤亢進を示した。以上の結果より、腎癌でC5a-C5aR系が浸潤を高め転移に貢献していることが明らかになった。III. 乳癌におけるC5a-C5a受容体系の作用解明免疫染色でC5aR発現を調べると、ヒト乳癌では13%が発現しており、腫瘍サイズ、核異型度、増殖度、リンパ節転移、臨床的進行度に有意であった。さらに、女性ホルモン受容体発現とは負の、HER2とは正の相関がみられた。興味あることに、治療困難なトロプルネガティブ型で38%と高い発現率であった。C5aR陽性癌患者は生存率が有意に低く、その理由としてリンパ節転移部癌の高いC5aR発現率、C5aによるC5aR発現細胞の増殖亢進作用が明らかになった。以上より、C5a-C5aR系は乳癌進展に貢献して予後の悪さに関与していることが示された。したがって、この系は治療の標的として、とくにトリプルネガティブ型の治療に有用であると考えられる。
1: 当初の計画以上に進展している
C5aによるヒト癌細胞への作用を当初の計画どおり増殖と転移から調べ、共にC5aRに依存して促進作用があることを解明した。シグナル伝達経路を種々の伝達分子阻害剤による増殖抑制で検討しERKとPI3Kの経路が浸潤亢進に関与することを突き止めた。また、腎癌や乳癌に関して、患者の臨床病理学的なデータの解析から、癌細胞のC5aR発現は癌の進展に関与し、予後の悪さに関係していることを明らかにし、特に乳癌では予後因子になる可能性を見出した。さらに、治療困難なトリプルネガティブ乳癌での高い陽性率から、C5a-C5aR系が治療標的として有用であることを提示できた。
アレルギー反応によるC5a産生の癌増殖促進効果の解析これまでの研究成果であるC5aによる癌進展作用を動物実験で確認する。1.RenCa細胞と同じ系統のBalb/cマウスを20 mg/kgの牛血清アルブミン(BSA)/完全フロイントアジュバントのfootpad注射で感作し、2週間後同様の注射でboosterをかける。 2.さらに2週間後、尾静脈から100 µl採血して血清を分離し、Ouchterlony法でBSAに対する抗体価を確認する。 3.充分な抗体価のマウスの皮下にBSA 1mg/mlを添加した2x106 RenCa/C5aR cells/50 µlを注射し、アルザス反応で移植癌細胞微小環境にC5aを誘導する。数週間後に腫瘤を採取する。非感作マウスあるいはRenCa/mockで1週間後の腫瘤の大きさ、重さを比較する。 4.各々の腫瘤からパラフィン切片を作製する。 5.TAMをCD68とCD163/204で、MDSCをCD11bとGr1、血管内皮細胞をCD31に対する抗体で各々免疫染色し、浸潤細胞や血管増生を比較する。以上より、アレルギー反応による癌細胞の増殖・浸潤促進効果が明らかになる。
本年度に計画していた動物実験が優先すべき他の研究のため、次年度に持ち越しとなった。当初、製薬会社から供与予定のC5a受容体の拮抗剤が計画立案準備などの遅れのため供与に至らず、動物実験に必要な大量の拮抗剤を購入せざるをえなくなった。これらの事情により、繰り越し金額を次年度施行予定の動物実験と試薬購入に必要な金額の増額に充てる。
動物実験のためのマウス購入、飼育費、およびC5a受容体拮抗剤などの実験試薬の購入に、繰り越し金額の研究費を充てる。
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すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 1件、 査読あり 8件、 謝辞記載あり 8件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件) 図書 (1件)
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