研究課題
基盤研究(C)
我々が樹立した心筋にマイクロRNAであるmiR-143とmiR-145を強発現するαミオシン重鎖(MHC)miR-143/miR-145トランスジェニックマウス(TGM)はヒト拡張型心筋症様症状を発症する。本研究ではその生理学的、分子生物学的解析による病態解明を目指した。1) 発症前のTGM心を用いたDNAマイクロアレイによる網羅的遺伝子配列解析では興味あることに一連のカルシウム調節因子の発現に異常が認められた。これらカルシウム調節因子は心不全との関連が多く示唆されており、病態への関与が興味深い。現在それらの分子の発現調節メカニズムを解析中である。またレニンアンジオテンシン系に関わる分子の発現解析を行ったところ、アンジオテンシン変換酵素I型のみでなく、最近話題となっているII型の経路にも変化が起こっており、それらは当初想像していた以上に複合的に関連していることが明らかになった。2) In vitroでのmiR-143とmiR-145の心筋への効果を確認するため発現レトロウイルスベクターを構築して、ラット心筋培養細胞H9c2に感染させて安定高発現株を得た。これらの細胞において低血清とレチノイン酸刺激処理をして、これらマイクロRNAの心筋分化に及ぼす効果を心筋トロポミニンTおよび心室型ミオシン重鎖の発現を指標にして検討した。その結果miR-143/145は心筋の分化抑制に関与する事実が明らかになった。3) miR-143あるいはmiR-145単独の強発現の生体における効果を検討するために26年度以降に予定していたアデノウイルスによる発現実験を実施した。現在までにアデノウイルスベクター(AAV9)にニワトリ心筋トロポミニンTのプロモーターでmiR-145が発現するようにベクターを構築し、生後24~72時間のマウスの頸静脈から精製ウイルスを導入した。現在それらウイルスの生存率・心臓に与える効果を検討中である。更にαMHC-miR-145のTGMを作成し、現在系統化も進めている。
2: おおむね順調に進展している
平成25年度予定で達成しえなかった点もあるが、26年度に予定していた計画を25年度に前倒ししている箇所もあり、全体としておおむね順調に進行していると考えられる。最も難航している点はこの病態発症に関与しているmiR-143とmiR-145の標的遺伝子の同定である。これは一つに今まで主に既に発症している個体を解析に使っており、データが複雑になっていたことが原因として挙げられる。そこで本年度は心筋症発症前の個体を解析することにより、今まで見えていなかった前病期に起こる遺伝子変化を捕まえる事が出来た。またラット心筋細胞を用いた実験により、miR-143とmiR-145が心筋分化に関与する可能性が示唆された。
平成26年度以降は網羅的遺伝子解析で明らかになったカルシウム調節因子およびマイクロRNAの発現調節機構およびそれらの病態への関与のメカニズムを明らかにする。また、同じくレニンアンジオテンシン系の分子の発現変化のメカニズムを引き続き明らかにしていく。こららのin vitroでの解析と並行してアデノウイルスとトランスジェニックマウスを用いたmiR-143およびmiR-145の高発現系を樹立して、その機能解析を行い、miR-143およびmiR-145独自の心臓での機能を明らかにしていく。また他の心不全モデルおよびヒトサンプルでのmiR-143とmiR-145の解析を行いたい。
おおむね予定通り研究費を使用したが、消耗品の値引きにより若干の次年度使用額が生じた。次年度使用額 3850円は26年度の消耗品あるいは人件費に利用して一層の研究の推進を目指す。
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