研究実績の概要 |
寄生原虫をターゲットとしたPCR法による同定トライアルを今年度も継続した。 (1)アメーバ類:ヒトでは、肝膿瘍症例において顕微鏡的には検出しえなかった赤痢アメーバを検出(所正治他,2015)。また、豚において出血性下痢症の原因となっていたアメーバ属をポレッキーアメーバと同定した(Matsubayashi et al.,2015a,b)。さらに、本研究で確立したアメーバ属のPCRスクリーニング法を活用し、ケニアのHIV陽性/陰性児童を対象に赤痢アメーバ、ディスパアメーバ、大腸アメーバ、ハルトマンアメーバの陽性率を評価した。非病原性アメーバの陽性率が、HIV陽性児では、むしろ陰性児に比較して低いこと、さらに複数種のアメーバによる混合下にある児童のCD4陽性T細胞数が、1種のみもしくは非感染の児童に比較して有意に高いことが示され、宿主免疫がアメーバ類の感染を阻害せずにむしろサポートする可能性が明らかとなった(Matey et al., 2016)。 (2)その他の原虫類:ジアルジアではHIV関連胆管炎への関与が疑われた症例での除外診断を実施した(Imai et al.,2016 in press)。その他、エンテロモナス、レトルタモナス、メニール鞭毛虫などの非病原性鞭毛虫については、スクリーニング系を確立し、インドネシアのフィールドサンプルについて各原虫の高率の感染を認めた。現在、この方法と疫学的知見について論文作成を進めている。 本研究では、幅広い原虫類を網羅的に検出し、その蔓延の実態を明らかとすることを目指してきたが、3年間の研究機関に、ほぼ全ての腸管寄生原虫類についてその同定と種内多型解析を実現することができた。これらの手法を活用し、さらに臨床検査に活かしていくことで、原虫類の国内さらに国外における蔓延実態を明らかにしていくことが今後の課題である。
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