マラリア原虫のヒトから蚊への伝播はオオキネートが蚊中腸に侵入することで成立する。宿主侵入ステージの原虫は、アピコンプレクサ類原虫特有の細胞内構造を有し、その形成には同類間で共通した分子基盤が存在すると考えられる。しかしながら侵入ステージ構造形成に関与する分子の同定はこれまでほとんど進んでいない。申請者らはネズミマラリア原虫Plasmodium bergheiを用いたこれまでの研究で、オオキネート期の遺伝子発現を制御するマスター転写因子AP2-O (APETALA2 in ookinete)を発見し、さらにAP2-Oが直接制御する300以上の標的遺伝子を同定した。 AP2-O標的遺伝子群に含まれるアピコンプレクサ類特有の遺伝子群について、マラリア原虫人工染色体を用い目的タンパク質の細胞内局在・発現動態の解析を行った。さらに、発現解析によりオオキネートでの発現様式が同定された遺伝子に関して、同GFP発現原虫および抗GFP抗体を用いた免疫電子顕微鏡解析を行い、目的タンパク質の詳細な細胞内局在を解析した。さらに、これら発現解析によりオオキネートにおける発現が同定された遺伝子に関して、遺伝子欠損原虫を作製し、その表現型を解析した。その結果、複数のオオキネートの形態形成に関与する新規タンパク質をコードする遺伝子を同定した。それに加え、マイクロネームタンパク質やオオシスト形成に関与するタンパク質をコードする遺伝子等、侵入ステージ形成に必須の複数の遺伝子を同定した。マラリア原虫オオキネートの形態形成の分子基盤を明らかにした本研究の成果は、アピコンプレクサ類原虫の侵入ステージ形成の共通基盤の解明に繋がると共に、抗原虫病薬開発の新たな候補分子情報を提供し感染阻止戦略へ多大な貢献をもたらすものである。
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