研究概要 |
小形条虫の感染防御には虫卵の再感染と成虫の排虫とがある。虫卵の再感染防御の機序は、自然免疫と獲得免疫とに分けることができる。これまでの研究では、この2つの機序が区別されていなかった。本研究では、まず自然免疫による虫卵再感染防御に焦点をあて、新たな実験系を設定した。マウスに虫卵を経口投与して免疫し、2日後に虫卵を再感染させると、1隻の感染も許さない強い防御がみられた。この短期間で成立する防御は、免疫感染の虫卵を経口投与で行う場合でのみ誘導され、経皮や腹腔内の投与では起きなかった。防御を担う細胞の表面分子として、NK1,asialoGM1,CD8,CD80,CD86 は関与しないが、CD3,Thy1,CD4,ICOS,CD40Lの関与が示唆された。また防御発現の特異性について、消化管寄生虫Nippostrongylus brasiliensis, Strongyloides venezuelensis, Heligmosomoides polygyrus の感染は小形条虫の感染虫卵数を約半分にまで減少させたが、旋毛虫の感染は影響しなかった。さらに、防御に関わる分子を同定するため、再感染後の小腸における遺伝子発現をマイクロアレイを用いて解析している。 成虫の排虫はIgE抗体に依存することが知られている。そこで、寄生虫感染に共通の寄生虫抗原に無関係な抗原に対する多量のIgEについて防御への関与を検討し、これが防御を抑制することを旋毛虫感染マウスで明らかにした。またIgE抗体の機能発現細胞としての好塩基球について、実験手法をN.brasiliensis感染マウスを用いて開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
25年度の計画は自然免疫による小形条虫の虫卵再感染防御の解析である。この計画のほぼ全般について実験が行われた。成果としてまず実験系を確立することができた。これによって自然免疫に限定した現象の解析が可能となった。小形条虫の虫卵再感染防御がきわめて短時間のうちに成立し、しかも強力な排除能をもつという特異な免疫機構を明らかにする基盤が整った。この系を用いて消化管を介する虫卵感染によってのみ免疫が賦与されることが判明した。次にCD3+,Thy1+,CD4+の細胞が防御を担うと考えられ、これが補助分子であるICOSとCD40Lを介して防御を発現することが示唆された。しかしながらその実体はまだ不明の点も多く、さらなる解析が必要である。この点をより詳細に解析するために感染マウスの小腸について遺伝子発現をマイクロアレイを用いて解析し、5万遺伝子の内4万の遺伝子に非感染対照に比し2倍以上の発現がみられた。このデータをもとにさらなる分析が進行中である。防御の小形条虫特異性では3種の寄生虫感染による消化管の変化が小形条虫虫卵の感染を干渉することが示された。しかし虫卵での免疫に較べて防御が不完全であることから、小形条虫の虫卵による防御とは異なる機序とするのが妥当であろう。 成虫の排虫がIgE抗体に依存することから、これにかかわる要因が検討された。寄生虫感染に伴う高IgE血症はIgE抗体依存性の防御を抑制した。また好塩基球の関与を解析するための実験手技が開発された。
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