研究課題/領域番号 |
25460520
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
渡辺 直熙 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (00057019)
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研究分担者 |
石渡 賢治 東京慈恵会医科大学, 医学部, 准教授 (00241307)
浅野 和仁 昭和大学, 保健医療学部, 教授 (80159376)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 小形条虫 / 腸管免疫 / 自然免疫 / 獲得免疫 / 感染防御 |
研究実績の概要 |
小形条虫の感染防御は成虫と虫卵に向けられている。今年度は成虫の初感染および再感染後の消化管からの排虫について解析した。まず、初感染後の成虫の排虫について、マウスに虫卵を経口投与し、感染防御能は虫卵から発育した小腸の成虫数の推移で判定した。初感染後の排虫はIgEとマスト細胞が関与することが確認された。次に成虫再感染防御を解析するにあたって、実験系が設定された。マウスに虫卵を経口投与して発育した成虫に対する防御免疫を賦与した後で、この成虫からの虫卵による再感染を除くためプラジカンテルによる駆虫が行われた。成虫の再感染にあたって、虫卵の再投与は強い防御により感染が成立しないことから、媒介昆虫コクヌスキモドキから採取した小形条虫の擬嚢尾虫が経口投与された。再感染防御能はマウス小腸内の成虫数で判定した。再感染後の成虫への防御が発現する時期はマウスの系統により大きく異なっていた。成虫の再感染防御では、マスト細胞の関与が示唆されたが、IgEおよび好塩基球の関与は否定的であった。 虫卵の再感染防御については、サイトカインの関与を検討した。虫卵投与後2日で成立する自然免疫による虫卵再感染防御では、IL-4とIL-13の両者が必要であった。一方、虫卵初感染4週後にみられる獲得免疫による虫卵再感染防御ではIL-4とIL-13のいずれも不要であった。さらにIFN-gとIL-12は自然免疫と獲得免疫による再感染防御で不要であった。虫卵の再感染防御は、自然免疫と獲得免疫とで防御の成立のみならず発現の段階でも異なることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、小形条虫の虫卵に対する再感染防御と成虫の排虫について、感染マウスを用いた実験からその機序となる細胞と分子の同定と相互作用を明らかにすることを目的としている。 虫卵の感染防御は自然免疫によるものと獲得免疫によるものに区別し、それぞれに新たな実験系を構築して解析した。自然免疫による機序は初感染2日以内に誘導される強力な防御で、CD4陽性の abT細胞とgdT細胞の両者の共存を介して発現する。この過程では補助分子としてICOSが使われている。CD8T細胞、NK細胞、NKT細胞、好塩基球、マスト細胞は関係しない。サイトカインとしてはIL-4 とIL-13の関与が示された。防御の発現における特異性をみると、3種の消化管寄生線虫の感染が小形条虫の虫卵感染と交叉反応を示したが、防御能は小形条虫に対するものの半分にとどまった。この防御は細胞と分子が複雑にかかわる自然免疫の新たな機序と考えられる。一方、虫卵初感染4週後に解析した獲得免疫による再感染防御は、免疫記憶CD4陽性のabT細胞に依存するが、Th2サイトカインであるIL-4とIL-13およびTh1サイトカインであるIFN-g とIL-12のいずれも不要であった。これらの結果から、虫卵再感染防御は自然免疫と獲得免疫とで防御発現のエフェクター分子が異なることが示唆される。 成虫の消化管からの排虫については、初感染ではマスト細胞とIgEの関与が示されたが、再感染ではマスト細胞の関与は認められたもののIgEの関与は否定的であった。成虫の排虫についてはまだ十分な解析が進んでいないが、初感染と再感染とで異なる機序による防御が想定される。 これらの実験では、細胞と分子についての同定は一応の成果をみたが、その相互作用につての解析は十分とはいえない。また成虫の再感染につては、媒介昆虫であるコクヌスキモドキの繁殖・維持とこれへの小形条虫虫卵感染の条件設定に時間がかかり、実験の進行が大幅に遅れた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、平成27年度をもって終了する予定であったが、成虫再感染の実験系設定にあたって小形条虫の幼虫である擬嚢尾虫による感染が必須となり、その採取に時間を費やした。また、再感染後の成虫の排虫の過程がマウス系統で大きく異なることから、基礎的知見を得るのに時間がかかった。このような理由で研究はやむなく平成28年度への継続となった。 今後の実験として、各種欠損マウスや特異抗体処理マウスを用いた実験が当初に申請書にあるように行われる予定である。とくに抗体の関与を明らかにするため感染マウス血清移入や関与するIgクラスの同定があげられる。その上で、関与するIgの受容体をもつ細胞の同定が必要となる。とりわけ、好塩基球の関与が注目される。 虫卵の再感染防御に関しては、細胞と分子の相互作用をつきとめるために細胞移入の実験に着手する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は小形条虫の成虫の排虫の機序解析が課題であったが、実験系の設定にあたって小形条虫の幼虫である擬嚢尾虫による感染が必要となった。擬嚢尾虫は媒介昆虫コクヌスキモドキのなかで発育する。そこでコクヌスキモドキの繁殖と維持ならびに小形条虫の虫卵感染の安定な条件をきめるための予備実験に多くの時間を費やした。その結果成虫の再感染における排虫を解析するためのマウスと抗体に関する費用が残ることになった。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度の科学研究費の残額は、小形条虫の成虫の消化管からの排虫に関する研究にあてる。とくに各種の欠損マウスやモノクローナル抗体の購入にあてる。また一部は虫卵再感染防御に関するマウスと抗体の購入に使う。
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