研究課題/領域番号 |
25460524
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研究機関 | 北海道立衛生研究所 |
研究代表者 |
孝口 裕一 北海道立衛生研究所, 感染症部, 研究職員 (50435567)
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研究分担者 |
山野 公明 北海道立衛生研究所, 感染症部, 主査(感染病理) (40435566)
八木 欣平 北海道立衛生研究所, 感染症部, 感染症部長 (70414323)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | エキノコックス / 粘膜免疫 / ワクチン / イヌ / 再感染防御 |
研究実績の概要 |
イヌに繰り返し実験的感染を行うと、糞便中に排出される虫卵数が減少するという興味深い知見が経験的に得られている。我々はそのメカニズムを明らかにすることで、長期間効果が維持される実用的なワクチンの開発を目指している。 ビーグル犬7頭に5回感染と駆虫を繰り返した場合、最終感染の35日目の小腸に寄生する虫体数の平均は706匹であった。そのうち4回繰り返し連続感染を行い、駆虫後約半年間通常飼育したイヌ5頭の虫体数の平均は988匹であった。同様にイヌ2頭を用いて3回繰り返し連続感染をさせた場合、それぞれ1,005匹および10,800匹であった。一方、単回感染させたビーグル犬6頭に感染していた虫体数の平均は122,936匹であった。このように、繰り返し感染を行った犬の虫体数は、単回感染のそれらと比べ著しく減少することが明らかになった。また4回連続感染させ、駆虫後、約半年間の間隔をあけたイヌにおいても、虫体数は初回コントロールに比べ著しく少なく、長期的に防御効果を発揮するワクチン開発の可能性を示した。 Copro-ELISAにおいて糞便内抗原はイヌが感染を繰り返すたびに減少し、それに伴い排出虫卵数も著しく減少することが明らかになった。糞便中に排出される鉤の数を計測した結果、単回感染させたイヌよりも繰り返し感染させたイヌの糞便に数倍多い鉤が検出された。その排出のタイミングの特徴として、繰り返し感染させたイヌでは、感染後7日までに多数の鉤が排出されることが明らかになった。このことは、cpro-ELISAの数値とも矛盾がなく、虫体の主要な排出が、比較的感染の初期段階に行われていることが示唆された。今後、小腸の病理組織解析、感染初期のマイクロアレイ等を用いて、さらに再感染防御のメカニズムの検討を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、イヌにエキノコックスの感染と駆虫繰り返し行った場合に起こる再感染防御のメカニズムを解明することで、終宿主ワクチン開発に重要な遺伝子発現等の情報を得ることにある。前年度までに、2頭のイヌを用いて繰り返し感染と駆虫を4回行い、半年間通常飼育後、さらに5回目の感染を行った。今年度は、さらに2頭のイヌを用いて同様な実験を行った。その結果、半年後においても感染防御が生じることを確認し、この現象が一時的な非特異反応ではなく、比較的長期間維持される特異的な防御反応であることを示した。その実験の中で、イヌでの虫体の排除が、感染後約1週間の間に大部分が進み、その後も継続していることを明らかにした。このことは、虫体排除に関わる現象が感染初期に生じていることを示唆し、この現象の全容解明に道筋をつけたことから、今年度の目標をおおむね達成したと考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成25および26年度の実験結果から、イヌに繰り返し連続的に感染と駆虫を繰り返した場合、寄生する虫体数が著しく減少し、さらにその防御効果は、半年間維持されることが明らかになった。さらに糞便内抗原の排出パターン分析や、排除された鉤(虫体の一部)を計測することで、大分部の虫体排除が感染初期に起こることが明らかになった。 これらのことは、研究計画を作成した時点では想定していなかった知見である。研究計画作成段階では平成26年度までに、イヌの感染後35日目の腸管を用いて遺伝子発現解析を実施する予定であったが、研究が進むにつれて、感染後6~7日目に組織を採取したほうが、より具体的なデータが得られると判断した。従って、H27年度には、もう一度イヌの繰り返し感染を実施し、感染初期の組織の採材を実施する。それらの材料を用いて、小腸の病理組織解析、マイクロアレイ等の遺伝子発現解析を実施し、さらに再感染防御機構の分子レベルでのメカニズムの検討を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究が進展するうちに新たな知見が見出され、それに伴い、予定していた遺伝子発現解析等を次年度に行うこととしたため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成26年度予定していた遺伝子発現解析等を平成27年度に行う予定である。
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