殺虫剤の代謝抵抗性の多くは酸化酵素であるシトクロムP450(CYPと略)の活性亢進により生じている。各昆虫種にはCYP遺伝子が100種前後存在し,これまで,抵抗性に係るCYP分子種を特定することは容易でなかった。ネッタイイエカのCYP9M10は,ピレスロイド系化合物のペルメトリンの代謝性を有し,シス作用性の転写制御変異と遺伝子重複の双方によりピレスロイド抵抗性蚊において過剰発現することから,ピレスロイド代謝抵抗性の責任分子と推測されてきた。
前年度までの研究成果として,CYP9M10遺伝子が縦列反復して3コピー存在しているピレスロイド抵抗性系統JPPの蚊をもとにして,CRISPR/Cas9システムによりCYP9M10のノックアウト(KO)固定系統を作出し,全コピーをKOした1つのホモ接合体系統でペルメトリン感受性の有意な低下が認められたことから,CYP9M10の過剰発現がペルメトリン代謝抵抗性の原因であることの立証は終えていた。
今年度は,対照・変異導入系統に推定される各抵抗性レベルの精度を高め,導入変異の効果をより詳細に明らかにすることを目的とし,殺虫試験の追試を行った。その結果,JPP系統に比べて,(i)「CYP9M10遺伝子の全コピー欠損型ハプロタイプのホモ接合体系統とJPPの間のF1ヘテロ接合体」における50%致死濃度で表されるペルメトリン抵抗性レベルは1/2.7への減退とわずかで,(ii)1コピーを欠損しているが,変異の由来が互いに異なるハプロタイプに関する4つのホモ接合体系統蚊のそれぞれにおける抵抗性減退はそれ以下であったのに対し,(iii)全コピー欠損型ホモ接合体における抵抗性は1/110のレベルであった。この結果から,過剰発現性CYP9M10遺伝子がゲノム内に少数存在する場合に遺伝子あたりの抵抗性への寄与が最大になるものと考えられる。
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