研究課題
基盤研究(C)
赤痢菌は感染において自然免疫応答による攻撃を看過するのではなく、III型分泌装置より一群のエフェクターを宿主細胞内に分泌することで抵抗する。赤痢菌のエフェクターであるIpaHファミリータンパクはE3 リガーゼ活性を有し、自然免疫応答抑制に寄与する。IpaHファミリータンパクは赤痢菌感染により活性化される様々なシグナル伝達経路の因子を標的とし、そのE3リガーゼ活性により標的分子のユビキチン化修飾し、シグナル伝達を撹乱すると推測される。転写因子活性測定により、各IpaHタンパクの作用するシグナル伝達経路の特定を試みた。この結果、IpaHファミリーのうち、IpaH0722は自身のE3リガーゼ活性依存的にNF-κB活性化を抑制していることが明らかとなった。そこでIpaH0722の赤痢菌感染時のNF-κB抑制機構の解明を行った。赤痢菌は宿主細胞内へと侵入後、ファゴソーム膜に包まれるが、菌はこれを速やかに破壊し、細胞質中へと離脱、分裂、増殖し、隣接細胞へ感染を拡大していく。この際、破壊されたファゴソーム膜に含まれるジアシルグリセロール(DAG)が細胞内でDAMPsとして働き、DAG受容体であるプロテインキナーゼC(PKC)の活性化を介し、NF-κB活性化を誘導することを明らかにした。IpaH0722はこの赤痢菌感染時のDAG-PKC依存的なNF-κB経路を特異的に抑制することから、DAG-PKC-NF-κB経路におけるIpaH0722標的因子を探索したところ、下流のシグナル因子TRAF2との結合、ユビキチン化、プロテアソーム分解への誘導が確認された。以上より、IpaH0722-TRAF2間の相互作用が赤痢菌感染時のファゴソーム破壊によるDAG-PKC-NF-κB活性化を阻害、炎症反応を抑制することが示された(Ashida et al. PLos Pathogens 2013)。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、赤痢菌エフェクターIpaHファミリータンパクの包括的機能解析を目的としている。平成25年度はIpaHファミリータンパクの一つであるIpaH0722が赤痢菌感染時の特徴的な感染現象であるファゴソーム膜の破壊に伴うNF-κB活性化を標的とすることを見いだし、その自然免疫抑制機構を明らかにした。本研究成果は平成25年度にPLos Pathogens誌に発表し、その感染における重要性を証明した。
相互に高い相同性を有するIpaHファミリータンパクであるが、その細胞内局在、宿主標的因子、標的細胞が異なることから、その感染における役割は各々異なると考えられる。今後は未だ機能解析がなされていないIpaHファミリータンパクの個々の機能解析を進めると同時に、その包括的な解析を試みる。一つの病原細菌が複数のIpaHファミリータンパクを有するという事実から、その各々の機能は相互に影響を与え、相乗的な効果を示すことが考えられるため、IpaHファミリータンパクが形成する「IpaHネットワーク」を包括的に理解することは真の感染現象の解明につながると考えられる。今後はIpaHファミリータンパクの個々の機能解析により得られる知見の蓄積を元にそれらの感染における相互作用を明らかにすることを目的とする。
動物感染実験を研究計画していたが、東京大学医科学研究所の感染実験施設の修理により使用できない期間が長期に及び、予定していた動物の購入金額が次年度使用額として生じた。予定していた動物購入費を次年度に繰り越し、実験を行う。
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件) 図書 (1件)
Nature Reviews Microbiology
巻: 12 ページ: 1-15
PLos Pathogens
巻: e1003409 ページ: -
10.1371/journal.ppat.1003409
Cell Host Microbe
巻: 13 ページ: 570-583
10.1016/j.chom.2013.04.012