研究課題
赤痢菌が感染を成立させるためには、さまざまな生体防御反応と対峙する必要がある。生体側は感染初期に菌の侵入を感知、増殖を阻止する自然免疫系を発動することで、菌の感染を効果的に阻止する。しかしながら、赤痢菌はこれらの自然免疫応答による攻撃を看過するのではなく、III型分泌装置より一群のエフェクターを宿主細胞内に分泌することで抵抗する。赤痢菌のエフェクターであるIpaHファミリータンパクはE3 ユビキチンリガーゼ活性を有し、自然免疫応答抑制に寄与する。E3リガーゼ活性を有することから、IpaHファミリータンパクは赤痢菌感染により活性化される様々なシグナル伝達経路の因子を標的とし、そのE3リガーゼ活性により標的分子のユビキチン化修飾し、シグナル伝達を撹乱すると推測される。病原細菌感染において細胞質中で菌体より遊離された二本鎖DNAや環状ジヌクレオチドは宿主のDNAセンサーに認識され、I型インターフェロン産生誘導により菌の感染を妨げる。赤痢菌感染においてもI型インターフェロン産生が誘導され、菌の細胞内増殖を阻害することが確認された。そこで赤痢菌感染におけるDNA認識センサーを探索したところ、宿主のSTING分子が重要な役割を担うことを明らかにした。STINGノックダウン細胞を用いた赤痢菌感染実験ではコントロール細胞に比べ、細胞内菌数の有意な増加が認められ、またI型インターフェロンシグナルの減少が認められた。赤痢菌感染時の転写因子活性測定により、IpaHタンパクがI型インターフェロン産生経路に寄与するかを確認した。この結果、IpaHファミリーのうち、IpaH5が自身のE3リガーゼ活性依存的にI型インターフェロン活性化を抑制していることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、赤痢菌エフェクターIpaHファミリータンパクの包括的機能解析を目的としている。平成26年度は新たに赤痢菌感染においてI型インターフェロン産生誘導が生体防御機構として重要であることを明らかにした。これに対し赤痢菌はIpaHファミリータンパクの一つであるIpaH5を分泌し、赤痢菌感染時のI型インターフェロン産生を抑制するといった新たな感染戦略を見いだした。平成26年度は未だ機能未知であったIpaH5の表現型を明らかにすることができたことから、当初の予定通り順調に研究は進捗していると考えられる。
相互に高い相同性を有するIpaHファミリータンパクであるが、その細胞内局在、宿主標的因子、標的細胞が異なることから、その感染における役割は各々異なると考えられる。今後はその表現型が明らかとなったIpaH5の宿主標的因子の同定および作用機序を明らかにし、その感染機構を解明する。また未だ機能解析がなされていない他のIpaHファミリータンパクの個々の機能解析を進めると同時に、その包括的な解析を試みる。一つの病原細菌が複数のIpaHファミリータンパクを有するという事実から、その各々の機能は相互に影響を与え、相乗的な効果を示すことが考えられるため、IpaHファミリータンパクが形成する「IpaHネットワーク」を包括的に理解することは真の感染現象の解明につながると考えられる。IpaHファミリータンパクの個々の機能解析により得られる知見の蓄積を元にそれらの感染における相互作用を明らかにすることを目的とする。
動物感染実験を計画していたが、東京大学医科学研究所の動物感染実験施設の修理に伴い、使用できない期間が長期に及んだ。そのため、予定していた動物購入金額が次年度使用額として生じた。
予定していた動物感染実験を次年度に行い、その予算を執行する。
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