本研究の目的は百日咳の主症状である発作性咳嗽の原因となる細菌側病原因子を解明することである。 これまでの研究から、気管支敗血症菌とラットを用いた咳嗽発作を再現する動物感染モデルを確立し、これを客観的に定量化することに成功している。さらに咳嗽発作を起こさない気管支敗血症菌の自発性変異株(ΔC株)を得て、この変異株の全ゲノム配列を決定し、野生株との塩基配列比較から発作性咳嗽の原因となる細菌側病原因子の候補3遺伝子を決定した。気管支敗血症菌のゲノムのアノテーションから、特定された3つの遺伝子の遺伝子産物は、転写制御関連因子が1つと代謝関連因子が2つであることが予想されている。 平成25年度の結果より、ΔC株の変異遺伝子3つのうち、動物感染モデルを用いて調べた結果、3つの遺伝子のうち遺伝子産物が転写制御因子であると予想されるもの(遺伝子C)が咳嗽惹起に関連していることが分かった。従って、この転写制御因子により制御される下流の遺伝子の遺伝子産物が直接の咳嗽惹起能をもつ因子であることが推定された。平成26年度はこの転写制御関連因子により制御される下流遺伝子を推定するためにDNAマイクロアレイにより、野生株とΔC株で遺伝子発現の差異を調べたところ30程度の遺伝子に明らかな差が認められた。同時にこの転写制御因子の組替えタンパクを大腸菌を用いて精製し、結晶化を試みた。平成27年度は上記の候補遺伝子の変異株を作製して、動物感染モデルを用いて咳嗽惹起について検討したが、明確な結果は得られなかった。一方、野生株の超音波破砕物を用いても動物感染モデルにおいて咳嗽が惹起されることを確認し、ΔC株や野生株の加熱後の超音波破砕物では咳嗽が惹起されないことを確認した。このことより、やはりΔC株の欠損遺伝子の下流にある遺伝子産物のタンパク質が咳嗽惹起の原因物質であることが明らかになった。
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