研究課題/領域番号 |
25460530
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
久堀 智子 大阪大学, 微生物病研究所, 特任講師(常勤) (20397657)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 細菌 / 病原性 / 分泌系 / 結晶 / タンパク質複合体 / レジオネラ |
研究概要 |
病原細菌レジオネラが細胞表層に持つ IVB 型タンパク質分泌系の中で、DotI/DotJ 複合体は基質タンパク質を通過させるチャネルを形成すると考えられる。DotI/DotJ 複合体の構造を分子あるいは原子レベルで明らかにすることを目標として、平成25年度においては複合体の生化学的解析を行った。 (1)レジオネラ DotI、 DotJ 欠損株、およびそれらの相補株を用いた生化学的解析により、DotI と DotJ は相互依存的に安定複合体を形成することが明らかとなった。大腸菌での共発現系を用い、安定な複合体を高純度で単離することに成功した。得られた複合体はレジオネラから単離した複合体と同一の分子組成であることがブルーネイティブ電気泳動法などから示唆された。この複合体を光散乱法によって解析した結果、正確な分子量を同定することができ、また DotI と DotJ の分子比は 2:1 であることが明らかとなった。これらの結果から、レジオネラ IVB 型分泌系の中で、DotI 4 分子と DotJ 2 分子が複合体を形成していることが想定された。精製した複合体を用いて、結晶化のための条件探索を開始した。 (2)申請者らの研究により既に得られている DotI ペリプラズムドメインの結晶構造情報から、多量体の形成に関わると考えられるアミノ酸残基に部位特異的置換変異を導入して、レジオネラでの複合体形成、基質分泌能を解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
膜タンパク質であるために予想された困難を乗り越えて、複合体の精製は順調に進んだ。得られた複合体を用いた一通りの生化学的解析は完了し、必要な分子情報は得られた。部位特的変異株を用いた機能解析は、感染時での解析はまだ不十分であるものの、レジオネラでの解析は網羅的に行った。結晶化は着手したものの、まだ条件探索の段階である。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、大腸菌発現系を用いてDotI/DotJ 複合体の精製を行い、結晶化を進める。結晶化が困難であると判断された場合は、接合伝達系オーソログであり DotI と DotJ の機能を一つのタンパク質で担う TraM の膜通過領域を含んだ全長からなる多量体に対象を切り替え、同様の手法で精製、及び結晶化を試みる。 結晶化に成功した場合は構造解析に十分なサイズと質の結晶を得るための結晶化条件を引き続き探索する。構造が原子レベルで解けた場合、既に構造が電子顕微鏡レベルで解かれている IVA 型分泌系の中で対応する可能性のある部分複合体との構造比較を行う。また、申請者らが電子顕微鏡で解析中の IVB 型分泌系中核(コア)複合体の構造にフィッティングさせる「分子モデリング」を試み、基質通過チャネルとして機能するというモデルの妥当性を検証する。 また、感染時における DotI/DotJ 複合体の細菌細胞内局在を観察し、クロスリンク法や免疫沈降法と組み合わせて、 DotI/DotJ 複合体がコア複合体や他の構成タンパク質とダイナミックに相互作用して機能を実現する可能性を検証する。 結晶が得られた場合、構造情報から複合体の形成に重要だと思われるアミノ酸残基に変異を導入し、複合体形成、分泌能、宿主感染時のレジオネラ増殖に与える影響を解析する。また、感染に伴って DotI/DotJ と基質タンパク質との相互作用を経時的に解析する。これらの結果を統合して、基質輸送における DotI/DotJ 複合体の役割を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
膜タンパク質からなる複合体の精製においては、可溶化のための界面活性剤のスクリーニングなど複雑なプロセスが必要であると予想された。しかし、予想に反して、安定な複合体が大腸菌発現系を用いて比較的早い時点で単離に成功したため、予定していた生化学試薬や解析試薬、消耗品の不要分ができた。 このため、未使用額は結晶化スクリーニングなどに必要な試薬等の経費に充填することとしたい。
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