病原細菌レジオネラは宿主細胞にエフェクターと呼ばれる機能性タンパク質を輸送するため、その細胞表層に IVB 型分泌系という複雑な超分子複合体を形成する。その中で細胞内膜に局在し基質輸送のためのチャネルを形成すると考えられる DotI/DotJ 複合体に着目し、その構造を分子あるいは原子レベルで明らかにすることを目指してきた。この2種類のタンパク質から構成される部分複合体の構造を明らかにするため結晶化を試みてきたが、結晶化に必要と考えられる純度と量の複合体試料を得ることは困難であると判断したため、方針を変えて、今年度は複合体に相互作用するタンパク質を含んだより大きな複合体の精製を試みた。 IVB 型分泌系構成タンパク質の中で DotI/DotJ 複合体に相互作用するタンパク質を生化学的解析から探索したところひとつの ATPase が見出された。このことは DotI/DotJ 複合体が輸送機能の中核を担っているという仮説を支持した。今年度はこの ATPase を含んだ3つのタンパク質を大腸菌で大量発現する系を構築した。それぞれのタンパク質のいずれかに精製のタグを付与する組み合わせを順次検証し、また精製の条件を確立するための予備実験を行った。ある程度の純度の精製標品は得られ、Blue Native Page などで3つのタンパク質が含まれた予想される分子量の複合体形成が確認されたものの結晶化に十分な質の標品には至っていない。また、接合伝達系のホモログタンパク質による複合体発現も試み、同様の複合体タンパク質発現は確認できている状況である。 また、精製した複合体を解析することに替わる方法として、クライオトモグラフィーなどによる細菌内膜部分を含んだ IVB 型分泌系の可視化を目指し、細胞内電子密度を下げるためのミニセル形成の条件探索を行った。
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