研究課題
これまでの研究でコレラ菌(Vibrio cholerae)のレトロンとレトロンに含まれる逆転写酵素遺伝子の産物であるmulticopy single-stranded DNA(msDNA)は,転写制御因子と考えられているVC0176遺伝子とVC0177遺伝子を制御している可能性を示した。両遺伝子はVSP-1と呼ばれるpathogenicity island上にコードされているおり,レトロンまたはmsDNAを介してV. choleraeの病原性を調節していることを示唆している。VC0176遺伝子とVC0177遺伝子のオーバーラップしているプロモーター領域の塩基配列を調べたところ,msDNAのDNAステム部分と部分的に一致する配列が存在した。そこで,msDNAがデコイDNAとして機能し,転写制御因子であるVC0176タンパク質と結合することでVC0177遺伝子を制御しているのではないかという仮説を立てた。精製したVC0176タンパク質を用いてプロモーター領域への結合をゲルシフト法によって検証したところ,VC0176タンパク質の結合部位を明らかにすることができた。また,VC0176タンパク質が制御する遺伝子群をChIP-seq法によって網羅的に解析した。また,msDNAがアプタマーDNAとして機能している可能性を考え,磁気ビーズに結合させたmsDNAに結合するタンパク質をコレラ菌細胞抽出液より分取し,質量分析法によってmsDNA結合タンパク質の解析を行った。同定されたmsDNA結合タンパク質には,転写制御やDNAの組換えに関与するものが含まれており,msDNAがアプタマーとして機能している可能性を示唆しているが,さらなる詳細な解析が必要である。
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