新興病原体Escherichia albertiiの疫学および病原性の解明

2015 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 25460539
• 研究機関: 鹿児島大学
• 研究代表者: 大岡 唯祐 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 講師 (50363594)
• 研究期間 (年度): 2013-04-01 – 2016-03-31
• キーワード: Escherichia albertii / ゲノム / 比較ゲノム解析 / 病原性 / III型分泌機構

研究実績の概要

動物及びヒト下痢患者から分離されたE. albertii株、新たに集団感染事例から分離した株等の計26株について、Illumina MiSeqによるドラフトゲノム配列解析を行い、先行研究において既に全ゲノムを決定している3株含む計29株のゲノムデータを取得した。大腸菌を中心としたEscherichia属細菌との大規模ゲノム比較を行い、本菌のEscherichia属における進化的位置づけを明らかにするとともに、病原関連遺伝子群や代謝系関連遺伝子群を含む本菌に特異的な遺伝子群(領域)のより詳細な情報を得た。この中には、病原性関連遺伝子群や代謝系関連遺伝子群も数多く含まれていたが、特に興味深い病原因子候補として、①大腸菌系統では機能が失われていると考えられている”E. coli type III secretion system 2 (ETT2)”と呼ばれるIII型分泌系(以下、ETT2-T3SS)系の構造遺伝子群が完全な形で残っている株が多く、病原性に関与している可能性が高いこと、②本菌は通常の培養条件下で運動性を示さないとされているが、鞭毛合成・発現調節に関わる遺伝子群の保存性が高く、運動その他の機能に関わっている可能性が高いことを示した。
さらに、Escherichia属細菌と本菌を識別しうる疫学マーカーを検索し、糞便等の検体からも本菌を特異的・効果的に検出できるnested-PCR検出系を構築した。nested-PCR検出系を用いて、家畜(ウシ、ブタ、トリ)におけるE. albertiiの保菌状況調査を行い、ウシでは1/104検体(1.0%)、豚では17/121検体(16.8%)[5農場由来] が陽性、鶏ではブロイラー1/220検体(0.4%)、地鶏26/80検体 (32.5%)[4農場由来]が陽性であり、豚と地鶏での保菌率が高いことを明らかにした。
今後は、本研究で同定したゲノム特性について機能解析を進め、本菌のヒト病原菌としての理解を進めるとともに、開発したnested-PCR反応系を利用して保菌宿主や感染経路の解明を進める。

研究成果

• [国際共同研究] Federal Institute for Risk Assessment(Germany)
  • 国名: ドイツ
  • 外国機関名: Federal Institute for Risk Assessment
• [国際共同研究] Universidade Federal de Sao Paulo(Brazil)
  • 国名: ブラジル
  • 外国機関名: Universidade Federal de Sao Paulo
• [雑誌論文] Defining the Genome Features of Escherichia albertii, an Emerging Enteropathogen Closely Related to Escherichia coli (2015)
  • 著者名/発表者名: Tadasuke Ooka, Yoshitoshi Ogura, Keisuke Katsura, Kazuko Seto, Hideki Kobayashi, Kimiko Kawano, Eisuke Tokuoka, Masato Furukawa, Seiya Harada, Shuji Yoshino, Junji Seto, Tetsuya Ikeda, Keiji Yamaguchi, Kazunori Murase, Yasuhiro Gotoh, Naoko Imuta, Junichiro Nishi, Tania A. Gomes, Lothar Beutin and Tetsuya Hayashi
  • 雑誌名: Genome Biology and Evolution 巻: 7(12) ページ: 3170, 3179
  • DOI: 10.1093/gbe/evv211
  • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著 / 謝辞記載あり
• [雑誌論文] The Shiga toxin 2 production level in enterohemorrhagic Escherichia coli O157:H7 is correlated with the subtypes of toxin-encoding phage. (2015)
  • 著者名/発表者名: Yoshitoshi Ogura, Shakhinur Islam Mondal, Md Rakibul Islam, Toshihiro Mako, Kokichi Arisawa, Keisuke Katsura, Tadasuke Ooka, Yasuhiro Gotoh, Kazunori Murase, Makoto Ohnishi, and Tetsuya Hayashi
  • 雑誌名: Scientific Reports 巻: 5 ページ: 16663
  • DOI: 10.1038/srep16663
  • 査読あり / オープンアクセス
• [学会発表] 新興下痢症起因菌Escherichia albertiiのO抗原コード領域の多様性 (2016)
  • 著者名/発表者名: 大岡唯祐、勢戸和子、小椋義俊、井口純、藺牟田直子、吉家清貴、林哲也、西順一郎
  • 学会等名: 第89回日本細菌学会総会
  • 発表場所: 大阪国際交流センター（大阪府大阪市）
  • 年月日: 2016-03-23 – 2016-03-25
• [学会発表] Genomic diversity and evolutionary insights of Escherichia albertii, an emerging enteropathogen closely related to Escherichia coli (2016)
  • 著者名/発表者名: Tadasuke Ooka
  • 学会等名: SMBE Satellite Workshop on Genome Evolution in Pathogen Transmission and Disease
  • 発表場所: 志賀レークホテル（長野県下高井郡山ノ内町）
  • 年月日: 2016-02-22 – 2016-02-25
• [学会発表] 志賀毒素サブタイプStx2f転換ファージの構造比較及び種間伝播に関する解析 (2015)
  • 著者名/発表者名: 大岡唯祐、勢戸和子、磯部順子、瀬戸順次、池田徹也、 藺牟田直子、西順一郎
  • 学会等名: 第85回感染症学会西日本地方会
  • 発表場所: 奈良春日野国際フォーラム甍/奈良ホテル（奈良県奈良市）
  • 年月日: 2015-10-15 – 2015-10-17
• [学会発表] EHECおよびE. albertiiにおけるStx2f転換ファージの解析 (2015)
  • 著者名/発表者名: 大岡唯祐、勢戸和子、磯部順子、瀬戸順次、池田徹也、 藺牟田直子、小椋義俊、西順一郎、林哲也
  • 学会等名: 第19回腸管出血性大腸菌感染症研究会
  • 発表場所: 国立医薬品食品衛生研究所（東京都世田谷区）
  • 年月日: 2015-07-09 – 2015-07-10
• [学会発表] 新興下痢原性病原菌Escherichia albertiiのゲノム解析と疫学ツールの開発 (2015)
  • 著者名/発表者名: 大岡唯祐、勢戸和子
  • 学会等名: 第89回日本感染症学会総会・学術講演会
  • 発表場所: 国立京都国際会館（京都府京都市）
  • 年月日: 2015-04-16 – 2015-04-17