研究課題
基盤研究(C)
C型とD型ボツリヌス菌は神経毒素を産生し、ヒトや動物に強力な致死作用を引き起こす。特に、畜産・食品産業では脅威となっている。その毒素遺伝子は、バクテリオファージ(ファージ)により伝播される。拡大するボツリヌス菌の被害を阻止するためには、ファージによる毒素遺伝子の伝播を抑制することが有効であると考えた。しかしながら、ボツリヌス毒素遺伝子を有するファージ(毒素変換ファージ)の宿主菌への吸着メカニズムは未だ不明である。本研究では、毒素変換ファージの宿主認識分子および宿主菌側レセプター分子の同定を行う。以前に、C型毒素変換ファージc-stの全ゲノム解析を行った。しかしながら、そのゲノムの大部分の遺伝子情報は未知であった。また、ボツリヌス毒素遺伝子を伝播するファージとしては、1種類のゲノム情報(c-stファージ)のみである。今年度は、1)c-stファージを構成するタンパク質をコードする遺伝子群の特定、2)同種ファージc-468との比較ゲノム解析を行い、ファージの生命維持に必要なコアゲノムの推定を行った。1)C型毒素変換ファージの構造タンパク質の網羅的解析…精製c-stファージの粒子タンパク質を解析したところ、総計10個のOpen Reading Frame (ORF)が同定された。これらのORFは全てc-stファージゲノム上の99-157kbp領域に存在することが示唆された。2)C型毒素変換ファージの全ゲノムと比較ゲノムの解析…比較ゲノム解析に使用するc-468ファージゲノムの全塩基配列の決定を行った。c-468ファージゲノムでは、43-57kbp領域が欠損していた。このことから、ある頻度でゲノムが縮小していることが明らかとなった。今年度の結果から、C型毒素変換ファージの構造タンパク質をコードする遺伝子群を明らかにした。今後、解析を進め毒素遺伝子の伝播機構(ファージ変換)の解明を行いたい。
2: おおむね順調に進展している
既に、宮崎大学内では二種病原体等(ボツリヌス菌など)取扱施設として承認され、実験に必要な機器がほとんど備わっていたこと、実験に使用するボツリヌス菌および毒素変換ファージも保持していたことから、計画通りの実験を始めることができた。また、同大学内のフロンティアおよび人獣共通感染症教育・研究プロジェクトからの研究支援を受けられた。また、研究分担者である内山淳平氏と松崎茂展氏は、ファージに関する実験および解析技術を有していることから、本研究で問題が生じたときにはすぐに的確なサポートを受けられた。従って、研究の支援体制が非常に整っていたことから、効率よく実験が進められた。従って、進捗状況は良好である。
1)C型毒素変換ファージの構造タンパク質の網羅的解析…c-stファージの構造タンパク質を同定し、その遺伝子群を特定した。しかしながら、精製c-stファージ粒子を電子顕微鏡で観察すると、菌体に内在している他のファージも確認された。ファージの構造タンパク質の解析には、c-stファージ以外のファージタンパク質が解析に干渉していると考えられる。従って、c-stファージタンパク質の解析が困難である。今後、c-stファージのプロテオーム解析に適したファージの培養条件を検討し、再度、c-stファージの網羅的プロテオーム解析を行う。2)C型とD型毒素変換ファージの全ゲノムと比較ゲノムの解析…c-468ファージとc-stファージのゲノムサイズを比較すると、c-468ファージには異なるサイズのゲノム分子が存在したため、新たにゲノム配列を決定する必要があると考えられた。このことは、ファージ感染した宿主菌の継代培養を繰り返すことで、ゲノムの再編成が起きたことが考えられる。このような現象は極めてユニークであり、学術的に重要なことであると考察される。しかしながら、本現象を解明するには、PCR法では限界があり次世代シーケンサーで解析することが適当であると考えられ、c-468ファージゲノムの再解析を進めている。また、新規のD型毒素変換ファージd-1873の全ゲノム塩基配列を決定し、ゲノム構造の比較解析を行う。配列決定には、次世代シーケンサー(イルミナ、Myseq)を用いて行う。繰り返し配列が多い場合、配列決定が困難となることが予想されるので、次世代シーケンサー(Roche, 454 FLX Titanium)を用いる。
組換えファージ尾部吸着タンパク質の作製に必要な遺伝子導入装置は、当該年度の研究費では購入できなかったので、次年度に繰り越した。今年度は、応募申請書に記載した購入計画を変更し、遺伝子導入装置の購入を検討している。1)組換えファージ尾部吸着タンパク質の作製…大腸菌または枯草菌の発現系を用いて、予想したファージ尾部吸着タンパク質をコードする遺伝子を発現ベクターに構築する。構築したプラスミドのコンピテントセルへの導入は、大腸菌の場合、ヒートッショック法、枯草菌の場合、遺伝子導入装置を用いて行う。2)ファージ吸着タンパク質の吸着能測定…宿主菌(ボツリヌス菌など)を吸引法により、PVDF膜へ固定する。HRP標識した組換えファージ吸着タンパク質を作製したPVDF膜に反応させ、ファージ尾部タンパク質の菌体に対する吸着を検討する。
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