研究課題
C型とD型ボツリヌス毒素(神経毒素)による畜産・食品産業への被害は、脅威となっている。C型とD型毒素遺伝子は、バクテリオファージ(毒素変換ファージ)により伝播されている。その伝播を阻害することにより、畜産・食品への被害を抑えるのに有効であると考えた。しかしながら、毒素変換ファージのボツリヌス菌(宿主菌)への吸着メカニズムは未だ明らかでない。本研究では、C型毒素変換ファージ、c-stファージの宿主認識分子および宿主菌側レセプター分子の同定を行う。今年度は、1)c-stファージの2価金属イオンに対する安定性、2)c-stファージのプラーク形成の条件検討、3)組換えc-stファージ尾部タンパク質の作製について行った。1)c-stファージの尾部の鞘が壊れやすいことから、2価金属イオン(Ca2+またはMg2+)添加によるファージの安定性について調べた。培地にCaCl2、MgCl2、またはその両者を加え、電子顕微鏡によるファージ粒子の形態観察とファージタンパク質のN末端アミノ酸配列解析を行った。その結果、ファージの尾部の鞘への安定性を示さなかった。また、c-stファージの宿主菌への溶菌には影響しなかった。2)c-stファージの宿主菌への吸着を調べるため、本ファージのプラークを作製することにした。ボツリヌス菌は偏性嫌気性菌であり、酸素の存在下では増殖できない。そこで、ガスパック法により嫌気的培養の条件検討を行ったが、宿主菌のローンを作ることが非常に困難であった。ガスパック法では、酸素を置換するのに時間を要することが原因であると考えられる。今後、真空ポンプによるガス置換法の検討を行う。3)c-stファージのゲノム情報から、枯草菌SPβファージタンパク質および溶菌酵素と高い相同性を示す遺伝子を発現ベクターに挿入し、プラスミドを構築した。現在、大腸菌発現系を用いて、組換えタンパク質の発現の条件検討を行っている。
2: おおむね順調に進展している
宮崎大学獣医学科の二種病原体等(ボツリヌス菌など)取扱施設を利用することができた。また、宮崎大学産業動物防疫リサーチセンターからの研究支援を受けられた。実験材料のボツリヌス菌、バクテリオファージ(ファージ)を保持していたこと、実験に使用する機器などが備わっていたことから、計画通りの実験を進めることができた。研究分担者の松崎茂展氏と内山淳平氏から、ファージに関する実験および解析技術の的確なサポートを受けられた。従って、研究の支援体制が非常に整っていたことから、効率よく実験が進められた。今年度末には、宮崎大学から北里大学への移設作業に時間を要したが、これまでの実験室のセットアップのノウハウを活かし、北里大学では継続した実験を進めることが可能となっている。既に、北里大学では遺伝子組換え実験安全委員会の承認が得られていることから、ファージ尾部吸着タンパク質の同定に関する実験を進める準備ができている。
1. C型とD型毒素変換ファージのゲノム解析…次世代シーケンサー(イルミナMiSeq、ロッシュ454 FLX Titanium)を用いて、C型とD型毒素変換ファージの全ゲノム塩基配列の決定を行う。得られた配列情報をもとに、ファージタンパク質の網羅的解析を行う。2. c-stファージ尾部吸着タンパク質の同定、1)c-stファージ尾部吸着タンパク質の作製…組換えc-stファージ尾部吸着タンパク質の発現(培養温度、培養時間など)と精製の条件検討を行う。2)ファージ吸着タンパク質の吸着能測定…HRP標識したファージ吸着タンパク質をPVDF膜へ固定したボツリヌス菌に反応させ、ファージ尾部タンパク質の菌体に対する吸着を検討する。3)抗体の作製…組換えファージ吸着タンパク質をウサギに免疫し、抗ファージ吸着タンパク質抗体を作製する。4)免疫電子顕微鏡法…精製したファージ粒子を作製した精製抗ファージ吸着タンパク質抗体(一次抗体)と金コロイド結合抗ウサギ抗体(二次抗体)を反応させ、電子顕微鏡により観察する。5)ボツリヌス菌側レセプター分子の同定…ファージ尾部吸着タンパク質結合ラテックスビーズと菌体成分(ボツリヌス菌の細胞壁構成成分を薬剤処理したもの)を混合し、凝集性の違いにより結合する細菌側レセプター分子を特定する。
当初、研究計画していた次世代シーケンサー(イルミナMiSeq、ロッシュ454 FLX Titanium)を用いたC型とD型毒素変換ファージの全塩基配列の決定に費用がかかるため、今年度は、応募申請書に記載した計画を変更し、次年度に繰り越し、研究を遂行することにした。
1)C型またはD型菌からDNAを精製し、次世代シーケンサー(イルミナMiSeq、ロッシュ454 FLX Titanium)を用いて、全ゲノム塩基配列の決定を行う。得られた配列情報をDNAシーケンスアセンブルソフトウェア(Gene Codes) により解析する。2)分子生物学・配列解析ソフトウェア(インシリコモレキュラークローニング)を使用して、公共のデータベース(Genbank)を利用し、ゲノム上のそれぞれの遺伝子(orf)を推定する。また、GenomeMatcherを用いて、近縁ファージゲノム構造の比較を行う。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (8件)
Genome Announc.
巻: 2(3) ページ: e00233-14
10.1128/genomeA.00233-14
Virus Res.
巻: 189 ページ: 43-46
10.1016/j.virusres.2014.04.019
J. Biol. Chem.
巻: 289(34) ページ: 23389-23402
10.1074/jbc.M114.573071
Mol. Genet. Genomics
巻: 289(6) ページ: 1267-1274
10.1007/s00438-014-0887-4