研究課題/領域番号 |
25460545
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
松井 英則 北里大学, その他の研究科, 講師 (30219373)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 細菌 / 感染症 / CD46 / マウス感染モデル / レンサ球菌 / レンサ球菌毒素性ショック症候群 / 骨破壊 / RANKL |
研究概要 |
A群β溶血性レンサ球菌(group A streptococcus, GAS)は、レンサ球菌毒素性ショック症候群(STSS)を始め、多彩な臨床症状を引き起こすが、発症機構は十分に解明されていない。当該研究者は、1人の化膿性髄膜炎患者より、同一の血清型(emm1, M1型)のGASの強毒株と弱毒株を分離した。当該研究においては、両株の全ゲノム解析を基に、強毒化機構の解明を目指す。GASのM蛋白質は、ヒトCD46(hCD46)を受容体とする。マウスではCD46は精巣にのみ発現しており、またヒトとの相同性も低い(46%)。hCD46トランスジェニック(Tg)マウスの後肢足蹠部に強毒株を感染させると、劇症型GAS感染症を再現した。同時に急激な骨破壊が起こり、下肢を消失した。当該年度は、(1) ゲノム解析に基づいた両株間の差異、(2) hCD46Tgマウスを用いた感染実験による病原性の詳細な解析を目指した。 (1) 強毒株はrocA(発現制御遺伝子であるcovRの発現を励起)の1塩基置換による停止コドン(アンバー変位)の挿入が認められた。強毒株にrocA遺伝子を強制発現させると、ヒアルロン酸の発現が低下した。また、hCD46Tgマウスの感染実験で、致死性が低下した。以上の結果からrocAの変位がcovR制御下の病原遺伝子の発現を活性化し、強毒化することが判明した。 (2) hCD46Tgマウスのマウスの後肢足蹠部に強毒株を感染させると、急激な骨吸収が認めらたが、GASが骨芽細胞から receptor activator NF-kB ligand (RANKL)の発現を誘導し、破骨細胞を活性化することが組織化学により認められた(Matsui, et al.投稿中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初平成25~26年度実施計画:(1) 劇症型GASのゲノム解析に基づいた強毒化機構の解明。(2) hCD46Tgマウス感染モデルを用いた病原性の検討。 成果:(1) 強毒株にrocAの強制発現系を導入するとhCD46Tgマウスの致死率が下がった。一方、in vitroの実験でrocAが発現すると、covRの制御下の病原遺伝子の発現が抑制された。この事から、強毒株は、rocAの発現が抑制されることによる、covR制御遺伝子の大量発現に起因すると考えられた。しかし、分子遺伝学的には、弱毒株のrocA遺伝子の不活化による強毒化についての検証も必要と考えられるが、まだ菌株の構築が完了していない。(2) hCD46Tgマウスの後肢足蹠部に強毒株を感染させると、破骨細胞と骨芽細胞の両方が骨破壊部分に出現した。種々の抗体を用いた感染実験により、骨芽細胞から産生されるRANKLにより破骨細胞が活性化する可能性を示した(日本免疫学会と日本細菌学会で発表。論文投稿中)。GAS感染によるRANKLの産生細胞を組織化学により明らかにしたのは、大きな進歩と言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度に引き続き、(1) 病原遺伝子変異株の構築と(2) hCD46Tgマウスを用いた感染実験を行う。特に、以下の点を明らかにする。 (1) rocAの変異による病原遺伝子((csrR, hasA, ska, sagA, emm,speBなど)の発現量の変化。 (2) CD46の有無による細胞レベルでのGAS感染に伴うサイトカインの発現の質的及び量的変化。 (3) 抗マウスRANKLモノクローナル抗体を投与すると、2週間に渡りRANKLを除去でき、その間、殆どの破骨細胞は消失し、急激な骨壊死は起きない。そこで、hCD46TgマウスにGASをfootpadより感染させ、経時的に酒石酸抵抗性酸性フォスファターゼ(TRAP、破骨細胞マーカー)、アルカリフォスファターゼ(ALP、骨芽細胞マーカー)などの血中濃度変化を測定する。同時に脛骨近位端の組織化学(骨切片のH&E染色、TRAP染色、ALP染色、RANKL抗体染色、Sost抗体染色など)並びにマイクロCTによる分子形態学的解析を行い、GAS感染による急激な骨破壊機構を詳細に解明する。同時に、CD46を発現している細胞にGASを感染させ、RANKL産生に導くシグナル伝達系を明らかにする。 以上の結果を平成27年度には、論文で報告できるようにまとめる。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究支援者:高田美佐子の人件費を見込んでいたが、一身上の都合により急に転職することになり、その分の人件費が残った。 平成26年度に繰り越し、新たに研究支援者を雇い、その人件費として使用する。
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