研究実績の概要 |
A群β溶血性レンサ球菌(group A streptococcus, GAS)は、レンサ球菌毒性ショック症候群(STSS)を始め、多彩な臨床症状を引き起こすが、発症機構は十分に解明されていない。当該研究者は、1人の化膿性髄膜炎患者より、同一の血清型(emm1タイプ)のGASのムコイド株(MTB313と命名)と非ムコイド株(MTB314と命名)を分離した。 (1)平成26年度にMTB313とMTB314の全ゲノム配列を決定した(accession. nos. AP014572, AP014585)。平成25年度までのドラフト配列による比較ゲノム解析から、MTB313株は、rocA(レンサ球菌の代表的発現抑制遺伝子であるcovRの発現を励起)の1塩基置換(G464A)による停止コドン(アンバー変位)の挿入を認めていた(accession. no. AB737848)。本年度は、更に両株のcovS(燐酸化によりcovRを活性化)の同じ位置に変位を認めた。従って、両株ともcovSの発現が抑制されており、強毒株に分類された。また、CD46発現トランスジェニック(CD46 Tg)マウスの後肢足蹠部への皮下感染実験により、MTB313はMTB314より高病原性であった。 (2) 完結したMTB313とMTB314のゲノム配列を基に、改めて比較ゲノム解析を行ったところ、MTB314に貪食細胞抵抗因子のsicにも変位が認められた。しかし、フレームシフトを伴なわなかっかたので、病原性には係わらないと考えられた。 (3) GAS472株(STSSの患者から分離された、emm1タイプのGAS)のCD46 Tgマウスの後肢足蹠部への皮下感染実験から、GAS感染による急激な骨破壊を認めていた。平成26年度は、破骨細胞の活性化に係わるサイトカインであるRANKL(receptor activator NF-κB ligand) の発現誘導に加えて、RANKLのデコイ受容体であるOPG(osteoprotegerin)の発現抑制を見出した。従って、GAS感染による急激な骨破壊は、RANKLの過剰発現とOPGの発現抑制の相乗効果による破骨細胞の活性化が原因と考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の研究推進方策:病原遺伝子変異株の構築と、CD46 Tgマウスを用いた感染実験により以下の点を明らかにする。 (1) rocAの変位による病原遺伝子(covR, hasA, ska, emm, speB)の発現量の変化。26年度の成果:MTB313にMTB314のrocA遺伝子を挿入した株を構築した(MAT101株と命名)。CD46 Tgマウスへの感染実験により、MAT101は、MTB314と同程度まで病原性が低下した。また、covR, hasA, speB の発現量もMTB314と同じであった。従ってrocAは、covR/covSに制御されている病原遺伝子の発現を調製していることが明らかとなった。 (2) CD46の有無による細胞レベルでのGAS感染に伴うサイトカインの発現の質的及び量的変化。26年度の成果: GAS472株の感染後に炎症性サイトカイン、RANKL、Th17の発現誘導及びOPGの発現抑制を確認した。 (3) 抗マウスRANKLモノクローナル抗体を投与すると、2週間に渡りRANKLを除去でき、その間に殆どの破骨細胞は消失し、急激な骨壊死は起きない。そこでCD46 TgマウスにGASをfootpadより感染させ、GAS感染による急激な骨破壊機構を詳細に解明する。26年度の成果:GAS472を感染させたCD46 Tgマウスは、RANKLの発現誘導とOPGの発現抑制を導いた。抗CD4及び抗CD8抗体を投与しても骨壊死を全く抑制できないことから、T細胞の影響はないと考えられる。また、RANKL抗体とSost抗体を用いた解析により、骨細胞はRANKL産生に関割っていなかった。また、TRAP/ALP二重染色により、骨芽細胞がRANKL産生細胞と判明した。またOPGの産生も骨芽細胞と想定された。
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