研究課題/領域番号 |
25460553
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研究機関 | 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
秋庭 正人 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 動物衛生研究所・細菌・寄生虫研究領域, 主任研究員 (60355211)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | Salmonella Typhimurium / 薬剤耐性 / ゲノミックアイランド / 多コピー化 / blaCMY-2 |
研究実績の概要 |
本研究では国内の牛から分離されたSalmonella Typhimurium(ST)が染色体上に保有する薬剤耐性アイランド、GI-VII-6(GI)の多コピー化に基づく耐性増強機構の詳細を明らかにすることを目的としている。昨年度までにGIの全長または一部がgene duplication and amplification(GDA)の機構により直列に多コピー化し、CMY-2 β-ラクタマーゼ遺伝子の発現量が増加する結果、耐性が増強されることを示した。今年度は、多コピー化の様式解明を目的として、まず参照株としてのST L-3553株の完全長ゲノム塩基配列決定を試みた。その結果、L-3553株が染色体上に保有する9個の薬剤耐性遺伝子は全てGI中に含まれることが明らかとなった。挿入配列(IS)はGI上に6種9個、それ以外の部位に4種10個存在した。多コピー化の起点となることが予想されたIS26は染色体上に4コピー存在した。プラスミド上の薬剤耐性遺伝子は5個でISは4種8個存在した。IS1はプラスミド上に3コピー、染色体上に1コピー存在した。次に多コピー化したL-3553由来6株の全ゲノム塩基配列を解析した。得られた6株のドラフトゲノム塩基配列をL-3553配列上にマップしたところ、3株では予想通りGI上に存在する2つのIS26に挟まれた領域が多コピー化していることが示された。残り3株では両端にISの存在しない領域が多コピー化していた。うち2株の結合部位をPCR増幅し、塩基配列を解析したところ、IS26とIS1の存在が確認された。すなわち、これら菌株では多コピー化に先立ってISの挿入が起こり、その間の領域がGDAの機構により増幅されたことが示された。残り1株ではGI上の一部重複する3領域で増幅を認めたことなどから、ゲノム上の他の部位への転位と増幅が示唆された。以上のように、GDAによる多コピー化の様式は当初の予想より複雑で、ゲノム上に存在するISがSTの適応進化に重要な役割を果たす可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
参照株としてのL-3553株の完全長ゲノム塩基配列を決定し、データベースに登録した。さらに、6株の耐性増強株のドラフトゲノム塩基配列を得て、ショートリードマッピングにより、多コピー化様式の詳細を明らかにすることができた。以上の成績を2本の原著論文として発表した。当初、計画していたL-3553株と多コピー化株の網羅的遺伝子発現解析についても終了しており、現在、データを整理中である。以上のことから本研究は概ね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究でGI多コピー化の様式を明らかにすることができたが、その機構は十分明らかにされていない。抗菌剤に暴露されることで多コピー化が誘導的に引き起こされるのか、あるいは培養液中に存在する変異株のプールから単純に選択されただけなのかを明らかにする必要がある。そのため、これまでに行ったL-3553株と多コピー化株の網羅的遺伝子発現解析の結果を整理し、結論を得る。また、これまでの研究で多コピー化株の中にGIがプラスミド上に転位した株が確認されている。このプラスミドが他の菌に水平伝播する可能性を検証するため、自己伝達性試験を実施し、結論を得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
金額的に見合う消耗品等購入の必要がなかったため
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次年度使用額の使用計画 |
消耗品の購入
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