本研究では国内の牛から分離されたSalmonella Typhimurium(ST)が染色体上に保有する薬剤耐性アイランド、GI-VII-6(GI)の多コピー化に基づく耐性増強機構の詳細を明らかにすることを目的としている。昨年度までにGIの全長または一部がgene duplication and amplification(GDA)の機構により直列に多コピー化し、CMY-2 β-ラクタマーゼ遺伝子の発現量が増加する結果、耐性が増強されることを示した。さらに、GI保有菌参照株としてL-3553株の全長ゲノム塩基配列を決定し、その配列に多コピー化したL-3553耐性増強株6株のドラフトゲノム塩基配列をマッピングすることで、多コピー化の様式解明を試みた。3株では予想通り、GI上に存在する挿入配列(IS)26に挟まれた領域が多コピー化していたが、残り3株では参照株でISの存在しない部位を起点として多コピー化していていることが分かった。しかしながら、このうち2株の多コピー化部位両端をPCR増幅し、塩基配列を確認したところ、IS26とIS1の存在が確認された。すなわち、これらの菌株では多コピー化に先立ってISの挿入が起こり、その間の領域がGDAの機構により増幅されたことが示された。今年度は多コピー化株に特徴的な遺伝子発現の変化を明らかにする目的でマイクロアレイを用いた網羅的遺伝子発現解析を行った。その結果、多コピー化の認められる耐性増強株では多コピー化した領域に存在する遺伝子のほか、鞭毛発現、走化性、及びSOS応答に関連する遺伝子の発現が上昇し、細胞内侵入性に関わる遺伝子の発現は抑制されていることを明らかにした。このように、3年間の研究によりST が保有するGIが多コピー化するために必要な条件と、多コピー化の機構の詳細を明らかにすることができた。
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