研究課題
基盤研究(C)
劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)は、極めて致死率の高い全身性感染症である。この感染症を引き起こす主な病原体であるA群レンサ球菌は、小児に咽頭炎などを引き起こすありふれた病原体である。我々は、STSS患者分離株(STSS株)において、病原因子の発現を抑制している制御因子に変異があり、この変異により様々な病原遺伝子の発現が上昇し、STSSの様な重篤な症状を引き起こすことを報告した。しかしながら、これらの変異は57.3%の株でしかみられず、この他に変異があることが考えられた。我々は、これらに変異がない場合でも、病原遺伝子の発現が上昇するSTSS株が存在することを見出した。そこで、本研究では、STSS株において、既知のもの以外にどのような変異があるか、STSSの病態にどのような病原因子が関与しているか明らかにし、この劇症型感染症における病原体側の全体像を把握することを目的とした。csrR/csrS遺伝子やrgg遺伝子に変異がみられなかったemm1型のSTSS株44株とNI株30株からtotal RNAを抽出する。抽出したRNAを用い、逆転写反応を行い、cDNAを合成した。合成したcDNAとTaqManプローブ等を用い、6つの遺伝子について定量RT-PCRを行った結果、少なくとも6種類の発現パターンがあることが判明した。発現の上昇がみられた株について発現制御因子をコードする遺伝子の塩基配列を決定した結果、それぞれ1つの遺伝子に変異があることが判明した。
2: おおむね順調に進展している
当初の目的と同じところまで進んでいる。
さくねんどまでじゅんちょうにすすんでいることから、当初の予定と同じように今年度予定していた研究を遂行する。・病原遺伝子の発現に対する変異遺伝子(A遺伝子)の変異の影響このA遺伝子が、病原遺伝子の発現に影響を与えているか調べるため、劇症株(STSS株)に非浸襲性株(NI株)由来のintactのA遺伝子を導入した株、および、NI株のA遺伝子破壊株を作製し、病原遺伝子の発現量を調べる。STSS株にintactのA遺伝子を導入することにより、病原遺伝子の発現がNI株と同じレベルになり、NI株のA遺伝子を破壊することにより、病原遺伝子の発現がSTSS株と同じレベルになることを確認する。同定した責任遺伝子の変異がSTSS株やNI株でどれくらいみられるか調べるため、STSS株44株とNI株30株におけるA遺伝子の塩基配列を決定する。この遺伝子における変異頻度がSTSS株に有意にみられるか調べる。また、他のemm型においても、どのくらいの頻度で、A遺伝子に変異が生じているか調べる。・in vivoにおけるA遺伝子の変異の影響A遺伝子の変異が、in vivoで病原性に影響を与えるか調べるため、マウスをもちいた動物実験を行う。STSS株、NI株、NI株のA遺伝子変異株について、マウスの腹腔内に接種し、7日間経過観察し、各株の生存曲線を作成する。A遺伝子の変異により腎臓、肝臓、および、肺に障害が起きるか調べるため、マウスの腹腔内に接種した腎臓、肝臓、および、肺を摘出し、病理組織標本を作製し、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色を行い、病理組織検査を行う。また、マウスの皮下に菌を接種し、経過観察する。壊死を起こした皮膚の領域を測定し、それぞれの株で比較する。マウスから、皮膚、皮下、および、筋肉組織を摘出し、病理組織標本を作製し、HE染色を行い、病理組織検査を行う。
一部の実験において、試薬等消費を少なくでき、物品費を少なくすることができた。次世代シーケンスを外注する際に、消費税増税分にあてる。
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Clin Microbiol Infect
巻: 19 ページ: E222-E229
10.1111/1469-0691.12134