研究課題
ワクチンに含まれない血清型の菌が優性になる血清型交代現象(ワクチンリプレイスメント)により、肺炎球菌ワクチンのワクチンカバー率の低下が大きな問題となっており、莢膜の血清型に依存しない次世代ワクチンの開発が急務となっている。本研究では次世代肺炎球菌ワクチンの開発のために必要な分子基盤を構築することを目指し、肺炎球菌の病原因子の機能と肺炎球菌感染症の発症機序を明らかにすることを目的とした。平成25年度は27種類の病原因子をクローニングし、培養細胞に異所的に発現させ、コンフォーカル顕微鏡を用いて細胞内局在解析を行ったが、平成26年度はさらに28種類の病原因子をクローニングし、合計で55種類の肺炎球菌病原因子について、エンドソームへの局在、オートファジーの誘導・抑制を指標に機能解析を行った。その結果、エンドソームに局在する4種類の病原因子、オートファジーを誘導または抑制する4つの病原因子を同定した。これらの病原因子を含めた27種類の肺炎球菌病原因子についてそれぞれ変異株を作成し、培養細胞感染実験系での細胞内生残性、オートファジー誘導性について現在解析を行っている。その結果、肺炎球菌の宿主細胞内生残性やオートファジー誘導性に影響を与える数種類の病原因子を現在までに見出している。また、最新の研究から、多くの病原細菌が宿主細胞内侵入後に、時空間的にRabタンパク質と相互作用することが明らかになっている。そこで本研究では58種類のGFP-Rabタンパク質発現ベクターを用いて、各Rabタンパク質を発現させた培養細胞に、肺炎球菌を感染させ、菌を内包するエンドソームと各種GFP-Rabタンパク質との経時的な局在性について現在解析を行っており、いくつかのRabタンパク質が肺炎球菌を内包するエンドソームと共局在することを見出している。
2: おおむね順調に進展している
本研究では次世代ワクチン開発のために必要な分子基盤を構築することを目指し、肺炎球菌の保持している病原因子の機能を網羅的に解析し、肺炎球菌の宿主細胞感染メカニズムの解明を目的としている。昨年度に解析を行った27種類の病原因子に加えてさらに28種類の病原因子についてクローニングを行い、HeLa細胞や293T細胞に異所的に発現させ、その細胞内局在性やオートファジー誘導・阻害性についてスクリーニングをおこなった結果、エンドソームに局在する4種類の病原因子、オートファジーを誘導または抑制する4つの病原因子を同定した。この結果に基づき当該病原因子の欠失変異株を作成し、それを培養細胞に感染させてその影響を精査した結果、肺炎球菌の宿主細胞内生残性やオートファジー誘導性に影響を与える数種類の病原因子を現在までに見出している。また、GFP-Rab発現ベクターを用いた肺炎球菌の宿主細胞内動態解析も概ね順調に進んでいる。
エンドソームに局在、オートファジーを誘導または抑制する病原因子の機能・メカニズムについて、培養細胞を用いた異所的発現解析、リコンビナントを用いた宿主結合因子の探索、変異株を用いた宿主細胞内生残性・オートファジー誘導性解析により精査する。さらに、GFP-Rabタンパク質発現ベクターを用いた肺炎球菌の宿主細胞内動態解析についても解析を進め、局在が認められたRabに関してはドミネガを用いて肺炎球菌の細胞内生残性・ライフサイクルに与える影響を精査する。
研究を進める過程で、当所予期していなかった大変興味深い現象が見出された。しかし、この実験系の条件設定に予想外に時間がかかり、当初の研究計画を変更する必要が生じたことにより、年度内に完了することが困難となった。また、一部の病原因子が大腸菌に毒性を示したため、大腸菌株の選定などクローニングに予想外に時間がかかったため、当所の計画を変更する必要が生じた。
昨年度予定していたノックダウン実験に用いるオリゴ、siRNA導入試薬、蛍光免疫染色やウェスタンブロッティングに用いる抗体を本年度購入する予定である。また、大腸菌に毒性を示した一部の病原因子については、新たに導入する大腸菌株を用いてクローニング、タンパク精製を行う予定である。
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