研究課題/領域番号 |
25460565
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
末永 忠広 大阪大学, 微生物病研究所, 助教 (20396675)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 水痘帯状疱疹ウイルス / 膜融合 / グリコプロテイン / ヘルペスウイルス / 糖鎖修飾 / シアル酸 |
研究実績の概要 |
今年度は、主に、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)の宿主細胞内侵入時のウイルスエンベロープー宿主膜融合において、ウイルス側で必須であるグリコプロテインB(gB)、gH-gL複合体のうち、gBと宿主神経組織細胞のgBレセプターであるmyelin-associated glycoprotein (MAG)の結合機構を解析した。gB-MAGの結合には、gB上のシアル酸が必要であり、このシアル酸は、gB-MAG間の結合のみならず、VZVの宿主細胞への侵入、エンベロープー宿主膜融合にも必須であることをin vitroの感染実験とCell-cell fusion assayなどで明らかにした。また、このシアル酸は、gB上の557, 686番目のアミノ酸を修飾しているN型糖鎖末端に結合していることを、変異gBとMAGとの結合実験および変異gB発現細胞とMAG発現細胞とのCell-cell fusion assayなどで明らかにした(Suenaga et al., J. Biol. Chem.: 2015)。一方、gBの細胞内領域の構造によって、膜融合活性が著しく異なることが分かってきたが、そのメカニズムは不明である。そこで、gBの細胞内領域変異体を用いて、それらと会合する分子の同定を試みている。同時に、変異gBとgHとの膜融合時における相互作用に関しても解析中である。 本研究の昨年度の報告において、単純ヘルペスウイルス(HSV)のゲノム改変技術の開発を行ったが(Suenaga et al., Microbiol. Immunol.: 2014)、本年度は、VZVにおいて、上記の研究で得た知見をもとに、変異ウイルスを作成中である。 さらに、申請者らは、以前、HSVの宿主細胞内侵入時のウイルスエンベロープー宿主膜融合においても、HSV gBとMAGとの結合が関与していることを報告した(Suenaga et al., PNAS: 2010)。HSV gB-MAGの結合、膜融合においても、gB上のシアル酸が必須であり、現在、HSV gB上の糖鎖修飾部位を同定中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
VZVの膜融合、宿主細胞への侵入には、前述の通り、gBだけでなく、gH-gL複合体が必須である。VZV gBとMAGの細胞外結合箇所及び糖鎖修飾部位は明らかにしたが、膜融合に必要な細胞膜貫通領域と細胞内領域の構造についての解析は、まだ不十分である。また、MAGは神経細胞に特異的に発現している分子であるが、VZVは血球細胞にも感染する。申請者らは、VZV gBと結合し、膜融合、細胞侵入に関与するMAG以外の分子VgBR2とVZV gBと結合し、膜融合、細胞侵入に関与するVgHRを同定した。これらの分子はともに血球細胞に発現している分子である。VgBR2, VgHRを介したVZV感染機構の詳細に関して現在も解析中である。 さらに、前年度、HSVに関して確立した、CRISPR-Cas9システムを用いたウイルスゲノム編集法(Suenaga et. al, Midrobiol. Immunol: 2014)を、上記の通り、VZVをはじめとした他のウイルスへの転用を試みているが、確立には至っていない。 また、当初計画通り、ヒトヘルペスウイルス科に属するウイルスのひとつであるヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)の宿主細胞侵入に関与する分子を新たに同定した。しかし、こちらの解析ははじまったばかりであるので、詳細を解析していく必要がある。
|
今後の研究の推進方策 |
VZV gB及びgHの細胞膜貫通領域と細胞内領域の変異体を用いた膜融合アッセイにより、gB、gHの細胞膜貫通領域以下で膜融合に関わる構造を明らかにしていく。 VgBR2, VgHRを介したVZV感染機構に関して、特に初代培養細胞を用い、より生理的条件に近い形での解析を行っていく。 CRISPR-Cas9を用いたウイルスゲノム編集は、ウイルス複製効率が高いウイルスで効率が良いことがわかってきた。本システムをVZVやHHV-6に転用するために、ウイルス複製効率を上げる研究も必要である。 一方、HHV-6の宿主細胞侵入に関与する分子の解析として、本分子のウイルス側の結合パートナーを明らかにし、その上で、感染実験さらには、本研究課題によって、申請者らが開発したHHV-6の膜融合アッセイ(Tanaka, Suenaga et. al, J. Virol: 2013)などで、詳細を明らかにしていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
VZVの膜融合に関わる、gB、gHの細胞膜貫通領域以下の構造を明らかにするために、gB、gHの細胞膜貫通領域以下の変異体を用いた膜融合アッセイを行う。膜融合機構の詳細を明らかにするために、gB、gHと会合する宿主細胞内分子との相互作用を明らかにする必要がある。一方、VgBR2, VgHRを介した、血球系細胞へのVZV感染機構を、初代培養細胞を用いて解析を行っていく。VZVの宿主細胞への侵入機構を明らかにするために、変異ウイルスの作出も必要である。CRISPR-Cas9を用いたウイルスゲノム編集は、複製効率が高いウイルスで効率が良いことがわかってきており、本システムをVZVやHHV-6に転用するために、ウイルス複製効率を上げる研究も必要である。 新規に同定したHHV-6の宿主細胞侵入に関与する分子の解析として、本分子のウイルス側の結合パートナーを明らかにし、感染実験、HHV-6の膜融合アッセイなどで、詳細を明らかにしていく。
|
次年度使用額の使用計画 |
上述のように、VZV gB及びgHの細胞膜貫通領域と細胞内領域の変異体をコードするプラスミド作成、膜融合アッセイ試薬さらには、gB、gHと会合する宿主細胞内分子の同定を明らかにする目的での質量分析に用いる。VZVの初代培養細胞を用いた感染実験用の、細胞分離試薬、抗体費用なども必要である。さらに、gB、gHと結合する分子がタンパク以外である場合、すなわち、糖や脂質である場合はこれらを扱うための情報収集、VZVでのCRISPRシステム構築ウイルス複製効率を上昇させるための情報収集目的で、学会・研究会に参加する費用も必要となる。 一方、HHV-6に関しては、膜融合アッセイ試薬、宿主細胞侵入に関与する新規分子を見出したが、その分子解析のみならず生理的・臨床的意義なども明らかにしていくために、抗体、当該分子発現細胞分離試薬、HHV-6に関してのウイルス学的・臨床的情報収集目的で、学会・研究会に参加する費用も必要となる。
|