研究課題/領域番号 |
25460567
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
櫻木 淳一 大阪大学, 微生物病研究所, 助教 (90273705)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | HIV / RNA / Gag / パッケージング / 感染 |
研究実績の概要 |
後天性免疫不全症候群(AIDS)はここ四半世紀で最悪の伝染病の一つであり、現在までにその病原体HIVに対する様々な抗ウイルス薬が開発されている。しかしHIV特有の易変異性と選択圧逃避能から薬剤耐性ウイルス株の出現は避けられない問題であり、従来の標的と異なる作用点を持った新規薬剤の探索は常に求められている。 HIVはレトロウイルス科に属し、そのゲノムは粒子内で常に二量体化していることが知られており、ゲノム二量体化はウイルスの感染能・病原性にも深く関わっていると考えられる。また、ウイルスの遺伝情報がすべて含まれたウイルスゲノムはウイルスのいわば本体であり、レトロウイルス粒子中に二分子のみ存在するためそれを標的とした阻害剤の開発は効果的な抗ウイルス療法となりうる。 研究代表者はウイルス増殖におけるパッケージングシグナル(Psi)およびPsi内部にあるゲノム二量体化シグナル(Dimer Linkage Structure; DLS)の重要性やゲノム二量体化の果たす役割の新しい可能性を示唆し、DLSの必要十分領域を世界で初めて詳細に同定した。研究代表者はこれらの研究を継続発展させていく過程で、HIV-1DLS中にRNA偽結節様構造が存在することを強く示唆するデータを得た。通常のRNA構造と比べて偽結節は特異的な立体構造をとっており、薬剤標的として好適である。またRNA偽結節の独自構造を解析し、形成機序の考察を行うことにより基礎科学的視点からの新知見を多数得ることも期待される。平成26年度は引き続きDLS内部の偽結節周辺の構造に着目し、SL1やPBS領域の機能構造に関する知見を掘り下げると共に、ウイルスの粒子成熟に関わる重要なウイルス因子であるp1領域を詳細に解析することでゲノムパッケージや感染性獲得に関する考察を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
偽結節形成に影響を与えるDLS内部内部の偽結節周辺の機能に着目して解析を行った結果、以下のことが示唆された。以下の成果はHIVのゲノムRNAの構造や機能の理解に大きく寄与したものである。 ○二量体化開始点(Dimer Initiation Site: DIS)を含みDLS内でも非常に重要な領域であるSL1 (Stem-Loop1)の構造に関して、ウイルス学的解析から従来の理解とは異なりヘアピンループ部が大きく、ステム基部が短い可能性が示唆された。計算機科学によるシミュレーションでこの構造を検討した結果、RNA単体では新規構造を保つことは困難であり、RNA構造維持のため介在する他因子の存在を示唆する結果が得られた。 ○HIV粒子はプロテアーゼによる粒子蛋白Gagの切断を受けて初めて成熟し、感染を持つようになるが成熟過程で明らかになっていないことは多い。Gag内のペプチドであるp1を切断単離されないように変異導入すると、変異体は感染細胞内でのみウイルスRNAの逆転写が不能となることを研究代表者は明らかにしてきた。今回は特殊な変異体を作成することで従来不可能だったp1領域への詳細な変異導入を行うことに成功し、p1とウイルス成熟とウイルスRNAの関係を解析することでゲノムパッケージングのメカニズムの理解を深めることを試みた。
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今後の研究の推進方策 |
偽結節構造に関しては蓄積するゲノムデータベースを利用して周辺領域の保存状態を比較しつつより正しい構造モデル構築の検討を行う。 DLS・Psiに関しては翻訳とパッケージングの関係、ウイルス粒子成熟とRNA逆転写との相関など様々な明らかになっていない事象を取り上げ、多面的に解析することでその機能構造に迫りたい。 偽結節構造に対するInsilicoスクリーニングに関しては新規のプログラムやデータベースの状況を確認し、実現可能性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本来予定していた実験において購入予定だった物品が共通利用品などで代用できたため繰り越しが生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度には当初想定を拡張した実験を計画し、より大きな成果を得るために使用する予定である。
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