研究課題/領域番号 |
25460573
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
博多 義之 近畿大学, 医学部, 助教 (30344500)
|
研究分担者 |
宮澤 正顯 近畿大学, 医学部, 教授 (60167757)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | ウイルス / HIV-1 / オートファジー |
研究概要 |
これまでにHIV-1 Vprがオートファジー制御能を持つこと、特にオートリソソームへの成熟過程に関与していることを独自に発見している。平成25年度において交付申請書に記載したとおり、オートファジー制御に働く因子の同定および制御を担う分子機構の解明に向けた解析を行った。Vprは多機能性タンパク質であり、機能発揮に多くの細胞性因子と相互作用する。また、相互作用のためのアミノ酸残基やドメイン領域も同定されている。まず、これら領域に変異を導入し、既知機能を欠いたVpr変異体の発現ベクターを作成した。作成したVpr変異体と既知因子との結合をIP-Western法にて評価したところ、予想通り結合の消失が確認された。その後、LC3-II量を指標にVpr変異体がオートファジー制御能を保持するのか調べた。その結果、既知機能に欠陥を持つ作成した全てのVpr変異体群がオートファジー制御能を保持していることが明らかとなった。これらの結果から、Vprによるオートファジー制御は既知機能とは相関を持たないことが分かった。さらに既知機能に関与する因子群はオートファジー制御に働かないことが示唆された。別に、代表的なAtg関連遺伝子産物(beclin1、 Rubicon等)についてVprとの相互作用を調べたが、明らかな結合を認めなかった。同時に、Vpr発現がこれらの発現量を変化させるのか調べたところ、顕著な差異を認めなかった。次に、上記変異体とは別に種々のVpr欠損変異体群を作成し、オートファジー制御に必要な領域を調べたところ、オートファジーを促進する領域およびオートリソソームへの成熟を阻害している領域の2領域に分かれることが明らかとなった。該当する領域のペプチドを合成し細胞に導入した際も同様の結果が得られた。従ってVprはオートファジーを正負に制御する分子スイッチであることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請研究期間内(平成25-27年度)では、Vpr依存的オートファジー制御に関与する宿主因子を同定し、制御のための分子機構の解明を行うこと、さらにHIV-1複製とエイズ病態におけるオートファジー制御の意義を明らかにすることを目的としている。また、Vprはprotein transduction domainを持つタンパク質であり、HIV感染者において血清中および脳脊髄液中に認められることから神経細胞を含む様々な細胞に影響を及ぼすことが想定されている。そこでこれら細胞におけるVpr依存的オートファジー制御の有無、およびその制御が細胞生理や生存に与える影響について解析し、エイズ病態との関連性を明らかにすることを第2の目的に挙げている。平成25年度において、計画通りの方法を駆使しオートファジー制御に関与する細胞内因子の同定と分子機構の解明に着実に迫っている。成果として既知の相互作用因子がオートファジー制御に関与していないこと、およびオートファジー制御の要となるAtg関連遺伝子産物とは相互作用していないことが分かった。また、オートファジー制御の分子機構に関して、Vprは機能的に2つの領域に分けることができ、各領域はそれぞれ異なる機構で制御に関与することが分かった。この結果は新規の知見である以上に、今後の研究計画を促進すると思われる。Vprと相互作用する因子を同定するためにTAP法の利用を計画しているが、Vpr発現に伴う細胞毒性が問題となっている。しかし、上記2領域同定の結果、各領域を試験管内でペプチド合成することができ、合成後には細胞破砕液と混合し結合する因子を単離できる。従って、この方法により細胞毒性の問題を克服できる。既にペプチドは合成が完了している。以上の通り目的と計画に沿った形で、おおむね順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
Vpr依存的オートファジー制御に働く細胞性因子の同定に向け、引き続き研究計画に従い研究を遂行する。まず、これまでに試していないAtg関連遺伝子産物についてVprとの結合を順次調べていく。また、因子の同定に向けて計画していたTAP法には、Vpr発現に伴う細胞毒性が問題となっているが、Vpr発現量を調節することで毒性を回避しながら予定通り因子の単離を目指す。平成25年度の研究成果からVprはオートファジーを促進する領域およびオートリソソームへの成熟を阻害する領域に分離できる事が分かった。そこで、2つの領域のペプチドを合成しビオチン化する。ビオチン化ペプチドをアビジンビーズに固定させ、高密度の培養細胞から調整される細胞破砕液と混合後、結合し単離された因子について網羅的に質量分析を行う。ペプチドは既に合成が完了しており、大量に研究に使用できる状態にある。本法はTAP法の問題点を克服しており、数多くの結合因子が同定されると期待できる。 HIV-1複製におけるVpr依存的オートファジー制御の意義を明らかにするために、感染の標的であるT細胞とマクロファージでもVprに依存的なオートファジーの制御が認められるのか調べる。そのために、各種細胞にHIV-1またはVprを欠損させたHIV-1を感染させ、数週間に亘り経時的にLC3-II量を比較する。さらに、Vprによるオートファジー制御がウイルス複製のどの段階に働いているのかマクロファージを使用して解析する。 その他、感染免疫応答に関与する樹状細胞およびHIV-1感染により細胞死などの影響を受ける神経細胞にリコンビナントVprタンパク質を添加し、これらの細胞でもオートファジー制御が起こるのかについてLC3-IIを指標に調べる。この際、これら細胞の成熟、機能、および生死について同時に解析し、エイズ病態とオートファジー制御の関連性を明らかにする。
|