研究課題
【目的】インフルエンザウイルスRNA依存性RNAポリメラーゼの構成要素の一つであるPAサブユニットはエンドヌクレアーゼ活性ドメインを有し、mRNAのキャップ構造を含むオリゴヌクレオチドを切り取り、プライマーとして使用することでウイルスゲノムの転写に重要な役割を果たしている。また、PAサブユニットは変異が少なく株間で保存性が高いため、抗インフルエンザ薬の新規ターゲットとして期待されている。そこで本研究では、所有する化合物ライブラリー及び各種漢方薬を使用し、PAサブユニットのエンドヌクレアーゼ活性を阻害する化合物を探索した。【方法】大腸菌を用いてPAエンドヌクレアーゼドメインの組換えタンパクを作製・精製し、各種化合物によるエンドヌクレアーゼ活性阻害効果を生化学的に検討した。また、エンドヌクレーゼ阻害効果がみられた化合物に対し培養細胞を用いて感染阻害効果を検討した。【結果・考察】PAエンドヌクレアーゼ活性を阻害する化合物として、フラーレン及びシアロ糖鎖を含む誘導体等を見出した。また、葛根湯及び麻黄湯、柴胡桂枝湯、竹如温胆湯、桂枝湯、小柴胡湯、麻黄附子細辛湯等の漢方薬もPAエンドヌクレアーゼ活性を阻害した。さらに、フラーレンはインフルエンザウイルス感染阻害作用が見られた。したがって、これらの化合物は、次世代の新規抗インフルエンザ薬のシード化合物として期待される。また、漢方薬においては新たな抗インフルエンザウイルス作用の一端を見出した。またインフルエンザウイルスRNA合成酵素PB2のアセチルCoA結合能の解析についてJ. Biol. Chem.(2014)に論文を発表した。インフルエンザRNAポリメラーゼPB2中央部位はアセチルCoA結合活性を有すること、アセチル化酵素阻害剤によって抑制され、結合モチーフであるVRG配列のアミノ酸置換によって消失した。VRG配列を介したアセチルCoAとの結合がPB2の活性発現において重要な働きを担うことが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
表題であるフラーレンによる抗インフルエンザ活性はPloS Oneに論文を発表することができた。フラーレン以外にも漢方エキスの中にインフルエンザ・エンドヌクレアーゼ阻害活性を示すものを見いだした。上述のインフルエンザPB2の新規活性を発見した。さらに、以下に述べるようなバクチオールという新規抗インフルエンザ活性を有する化合物も見いだすことができた。バクチオールは、芳香族環上に1個のヒドロキシル基および不飽和炭化水素鎖をもつフェノール系化合物であり、オランダビユ(Psoralea corylofolia)の種子から単離された。天然型バクチオールは、光学活性選択的にインフルエンザAウイルス感染阻害効果を有することを見いだした。バクチオールの抗インフルエンザ活性では、ウイルス側因子ではなく、細胞側因子を標的とする事が示唆されたため、バクチオールとウイルスを作用させたMDCK細胞に対して、次世代シークエンサーを用いた網羅的な遺伝子発現解析を行った。その結果、天然型バクチオール処置により酸化ストレス応答の際に発現するNQO1とGSTA3の遺伝子発現が上昇した。これらの遺伝子は、転写因子Nrf2により発現誘導され、NQO1やNrf2の発現上昇は、インフルエンザウイルスの増殖を阻害することが報告されている。したがって、バクチオールによる細胞内酸化ストレス応答の関連遺伝子の発現上昇が、抗インフルエンザ作用のメカニズムの一つであると考えられる。以上より、バクチオールは、宿主細胞因子を標的した機序により、次世代の抗インフルエンザ薬の開発候補品として期待される。
インフルエンザ・エンドヌクレアーゼ阻害活性を示す化合物・抽出液を引き続き検索していく。漢方薬やシアル酸糖鎖化合物、バクチオールなどの抗インフルエンザ活性の作用メカニズムの解明を試みる。さらにインフルエンザと宿主細胞のタンパク質修飾やクロマチンとの関連性を探究する。
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Journal of Functional Foods
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http://p.bunri-u.ac.jp/lab08/index.html