研究課題
基盤研究(C)
同じHA亜型のヒト季節性インフルエンザウイルスと鳥インフルエンザウイルスとの間で、ヘマグルチニン(HA)蛋白質の構造安定性に違いがあるのかどうかを解析した。イヌ腎臓由来のMDCK細胞を用いて、ヒトから分離されたH1とH3亜型の季節性ウイルス流行株[A/Brisbane/59/2007(H1N1), A/California/04/2009(H1N1pdm), A/Uruguay/716/2007(H3N2) ]を培養した後、ショ糖クッション遠心法により精製した。カモやハクチョウから分離されたH1とH3亜型のウイルス[A/duck/Alberta/35/76(H1N1), A/swan/Hokkaido/55/96(H1N1), A/duck/Hokkaido/5/77(H3N2)、A/duck/Ukraine/1/63(H3N8)]は、発育鶏卵で培養した後、同様の方法を用いて精製した。構造が変化(変性)したHA蛋白質は、レセプター結合活性や膜融合活性を失う。そこで、熱処理した精製ウイルス粒子の赤血球凝集(HA)活性を測定することにより、HA蛋白質の構造安定性を評価した。精製ウイルス粒子を50℃で所定の時間処理した後、ウイルスのHA活性を測定した。その結果、何れの株も1時間の熱処理でHA活性が1/2から1/4程度まで低下した。しかし、その後4時間までHA活性は殆ど変化が認められなかった。このことは、鳥インフルエンザの自然宿主である野生水禽が保持するウイルスとヒトの間で流行しているウイルスは、温度などの物理的環境変化に対して同等の安定性を持っていることを示唆している。今後は、ヒト型レセプターを認識するのに必要なアミノ酸変異を鳥インフルエンザウイルスのHA蛋白質に導入した時、その変異が蛋白質の構造安定性に影響するのかどうかを解析する。
4: 遅れている
平成25年度は、同じHA亜型のヒト季節性インフルエンザウイルスと鳥インフルエンザウイルスの間で、HA蛋白質の構造安定性に違いがあるのかどうかを調べるために、精製ウイルス粒子及び蛋白質発現細胞を用いて、HA蛋白質の熱に対する安定性を評価する予定であった。ウイルス粒子を用いた解析については完了し、同じHA亜型のヒト季節性インフルエンザウイルスと鳥インフルエンザウイルスの間で、HA蛋白質の熱安定性に有意な違いはないことが示唆された。しかしながら、平成25年10月に異動した岩手大学において、実験室等を新規に整備する必要があり、また、実験に不可欠な備品を新規に購入する必要があったことから、当初の計画通り実験を進めることができなかった。そのため、平成25年度に予定していたHA蛋白質発現細胞を用いて熱安定性を解析する手法の確立には至らなかった。しかし、H1、H2およびH3亜型の各鳥インフルエンザウイルス[A/duck/Alberta/35/76(H1N1), A/swan/Hokkaido/55/96(H1N1), A/duck/Hong Kong/273/78(H2N2), A/duck/Germany/1215/73(H2N3), A/duck/Hokkaido/5/77(H3N2)、A/duck/Ukraine/1/63(H3N8)]から由来する野生型HA遺伝子を組み込んだ蛋白質発現プラスミドの作出については完了しており、現在、解析手法の確立を目指している。
平成26年度は、ヒト型レセプターを認識するのに必要なアミノ酸変異が鳥インフルエンザウイルスHA蛋白質の構造安定性と膜融合活性に影響するのかどうかを解析する。ヒト型レセプターを認識する鳥ウイルスは哺乳類に感染する可能性があることから、感染性のある精製ウイルス粒子を用いてHA蛋白質の性状を解析するには、バイオセーフティレベル3実験室などの封じ込め実験室が必要である。しかし、研究代表者が所属する岩手大学はその実験設備を持たないことから、ウイルス粒子を用いて性状解析を行うことができない。そこで、発現細胞を用いてHA蛋白質の性状を解析する。平成25年度内に実施する予定であったHA蛋白質発現細胞を用いて熱安定性を解析する手法を早急に確立する。次に、ヒト型レセプターを認識するのに必要なアミノ酸変異を導入したH1、H2およびH3亜型の各鳥インフルエンザウイルス由来のHA蛋白質を発現する細胞を作製する。これら発現細胞を用いて、変異HA蛋白質の熱に対する安定性ならびに膜融合活性を解析し、野生型HA蛋白質ならびに季節性ウイルス由来HA蛋白質の性状と比較する。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件)
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