研究課題
鳥インフルエンザウイルスがヒトに効率よく感染するためには、そのヘマグルチニン(HA)蛋白質のレセプター特異性が鳥型からヒト型に変化する必要がある。本年度はレセプター特異性に関わるアミノ酸変異が鳥ウイルス由来のHA蛋白質の安定性に影響するのかどうかを調べた。過去にパンデミックを引き起こした3種類のHA亜型(H1、H2及びH3)について解析した。ヒト型レセプターを認識するための変異を入れたHA蛋白質を持つPB2欠損非増殖型ウイルスを人工的に作出した。変異ウイルスはPB2蛋白質発現MDCK細胞を用いて培養した後、ショ糖クッション遠心法により精製した。精製ウイルス粒子を所定の時間(0.5時間、1時間、2時間、4時間、8時間、16時間)と温度(50℃)で処理した後、感染価を測定することにより、変異HA蛋白質の熱に対する安定性を調べた。(1) H1亜型:鳥型レセプターを認識する野生型ウイルスとヒト型レセプターを認識する変異ウイルスは、いずれも4時間の熱処理によって感染性を失った。しかし、1時間あるいは2時間熱処理した変異ウイルスの感染価は、同様の処理をした野生型ウイルスのそれと比較して僅かに低かった。(2) H2亜型:野生型ウイルスと変異ウイルスは、いずれも8時間の熱処理によって感染性を失った。しかし、2時間あるいは4時間熱処理した変異ウイルスの感染価は、同様の処理をした野生型ウイルスのそれと比較して有意に高かった。(3) H3亜型:野生型ウイルスと変異ウイルスは、いずれも8時間の熱処理によって感染性を失った。どの熱処理時間においても変異ウイルスの感染価は野生型ウイルスのそれとほぼ同じであった。ヒト型レセプターとの結合に必要な変異を持つH1亜型のHA蛋白質は、野生型HA蛋白質と比べて熱に対する安定性が僅かに低いことが示唆された。一方、H2及びH3亜型では、レセプター特異性に関わる変異は、HA蛋白質の熱安定性に影響を及ぼさないことが示された。
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