生体内に発生したがん細胞の排除は、いかに、がん特異的T細胞を効率よく誘導し、活性化できるかが非常に重要である。しかしながら、一般に担がん生体内環境は、がん由来のIL-6などの諸因子により、樹状細胞が機能不全となり、抗腫瘍免疫が十分に誘導されない。そこで本研究では、まずはじめに担がん生体環境下における樹状細胞の機能に対するIL-6シグナルの作用ついて精査した。 担がんモデルマウスに抗IL-6R抗体を投与し、IL-6のシグナルカスケードを遮断した結果、がんの増殖の抑制効果が認められるとともに、樹状細胞のMHCクラスII分子の発現抑制の解除、さらに抗原特異的CD4+T細胞およびCD8+T細胞の活性化が確認された。従って、IL-6シグナルは樹状細胞の機能制御を介して、抗腫瘍免疫を負に制御する機構が示唆された。 そこで、次にヒト末梢血リンパ球より樹状細胞を誘導し、IL-6処理を行ったところ、STAT3依存的にHLA-DRおよびCD86分子の発現抑制が認められた。またIL-6によるHLA-DRの発現抑制は、COX2、リソソームプロテアーゼ、あるいはアルギナーゼの阻害剤を添加することで解除されることが分かった。さらにIL-6処理条件下で誘導した樹状細胞を抗原提示細胞として使用し、ヒトがん抗原特異的Th細胞と共培養したところ、抗原特異的反応によるサイトカイン産生誘導が著しく減弱することが確認された。 以上の結果から、マウスがん治療モデルで見出した、IL-6/STAT3シグナル伝達経路とその下流分子による樹状細胞の機能不全が、実際にヒト樹状細胞についても認められたことから、今後、がん患者の腫瘍環境下の樹状細胞について詳細な検証を行なうことで、IL-6シグナルカスケードの阻害剤を用いた抗腫瘍免疫の解除による、より効果の高いがん免疫治療法の開発に繋ぐ科学的エビデンスが得られるものと考えている。
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