研究課題
基盤研究(C)
今年度はshRNAライブラリを用いたfunctional cloningによって、TLR7とTLR9の応答バランスを制御する分子の探索を行うと同時に、Unc93B1-D34A変異マウス (D34Aマウス)における遺伝子背景依存的な表現型の調節因子同定を目指した。前者については複数の候補分子が得られ、その候補分子に対するshRNA配列を細胞に導入するとTLR7およびTLR9の応答性に影響を与えたが、オフターゲット効果が散見された。その中で、サイトカイン受容体様分子がTLR7およびTLR9の応答性を負に制御する因子として同定されたため、現在解析中である。また、全くの偶然ながら、ノックダウンされた分子のコンプリメンテーションを行う過程においてクローニングした新規分子をBa/F3細胞に発現させたところ、TLR3、TLR7、TLR9の応答性を亢進させることが明らかとなった。この分子は機能などが全く報告されておらず、また分子名も付けられていないため、便宜上現在は「Peony」と呼んでいる。D34Aマウスの表現型調節因子の解析においては、連鎖解析によって対象を検索中である。現在300匹ほどのマウスを解析したが、特定の遺伝子座がBALB/cのホモアリルになっている場合、D34Aマウスの表現型が抑制される傾向が見いだされている。ただし、B6による表現型の促進については、その原因となる遺伝子座は見つかっていない。また、サイトカインやインターフェロンがD34Aマウスの表現型に与える影響を検討したところ、I型IFN受容体を欠損させたD34Aマウスにおいて表現型が緩和されることから、I型IFNが表現型に影響を与えていることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
shRNAライブラリによるスクリーニングについては想定していたよりもオフターゲット効果が強く、当初の目的であるTLR7を選択的に抑制する分子を同定するには至らなかった。しかし、目的こそ異なれど、機能などが全く不明である新規分子を同定し、その機能が核酸認識系TLRの応答性を亢進させるものであることを見いだした結果は大きいと考えている。また、連鎖解析についても表現型に影響を与える可能性のある染色体領域が同定されつつあり、今後の展開が期待される。連鎖解析によらない表現型調節因子についてもI型インターフェロンが候補として見出されるなど、一定の進捗がある。
一般的な問題として指摘されていることだが、1回目のshRNAライブラリによるスクリーニングを行った結果として、オフターゲット効果によって目的以外の遺伝子がノックダウンされていることが目的遺伝子の同定に対して大きな障害となっていることを痛感した。この対策としては、スクリーニングの回数を増やす、同定された遺伝子に対してshRNAライブラリと異なる配列でノックダウンを行う、といった量的なものが考えられる。また、現在盛んになってきたCRISPR/Cas9システムを使用し、 gRNAライブラリを用いてファンクショナルクローニングを行うことも視野に入れている。CRISPR/Cas9システムは細胞からマウスまでゲノム編集が効率よく行えるため、連鎖解析で同定された領域の遺伝子を網羅的にスクリーニングする際にも威力を発揮するものと思われる。なお、新規分子「Peony」については生化学的な解析を行ってその性質を解析する。また、ノックアウトおよび過剰発現をさせたマウスを作製して、その表現型を解析する。
本年度に新規分子であるPeonyが発見されたため、遺伝子改変マウスを作製して解析を行うことになった。ただし、細胞株においてPeonyをノックダウンすると大部分の細胞が死ぬことから、遺伝子改変マウスはコンディショナルノックアウトの形を取る必要があると考えられた。コンディショナルノックアウトマウスは樹立に時間がかかることから、解析が可能になるのは次年度である。そのため、マウスの解析に使用する費用を上乗せするべく、次年度使用額として割り振った。次年度は新規に発見した分子の遺伝子変異マウスを解析することから、フローサイトメトリーの使用料、病理切片の作製と解析などに前年度の未使用分を充当する。
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Nat. Commun.
巻: 4 ページ: 1949
10.1038/ncomms2949
Immunity
巻: 38 ページ: 1187-1197
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