研究課題
基盤研究(C)
本研究課題は、腸管樹状細胞(DC)のコンディショニング機構における腸管上皮細胞の役割を明らかにすることを目的とする。この目的のため、申請者は腸管粘膜に豊富に存在するTGF-bに着目した。なかでも、上皮細胞が恒常的に受容するTGF-bシグナルが、上皮細胞によるDCコンディショニングに重要な役割を担っているものと考え、検討をおこなった結果、以下の成果が得られた。まず、腸管上皮細胞のみTGF-bシグナルを受容することのできない上皮細胞特異的II型TGF-b受容体欠損(TbRII-IECKO)マウスを作製した。具体的には、TbRII-flox/floxマウスとVillin-creマウスの交配を繰り返すことで、TbRII-IECKOマウスとその対照(TbRII-flox/flox)マウスが同腹仔として生まれる系を確立し、これらマウスを実験に供した。TGF-bは免疫抑制あるいは抗炎症性サイトカインであることから、その欠如により腸炎などの炎症性疾患が自発的に誘導されることが予測されたが、TbRII-IECKOマウスは対照マウスと同様、正常に発育した。また、小腸および大腸における陰窩の数や頻度、絨毛の高さも正常であった。次いで、小腸および大腸粘膜固有層におけるDCサブセットの頻度を調べたところ、これらマウス間に違いは認められなかった。さらに、腸管粘膜固有層におけるTh17細胞、制御性T細胞、およびIgA生産性形質細胞の頻度を調べたところ、いずれもこれらマウス間に違いは認められなかった。またこれらの結果と相関するように、血清および糞便中のIgA生産レベルも正常であった。これらリンパ球の頻度やIgA生産レベルは同所に存在するDCにより厳密に制御されていることから、定常状態におけるDCコンディショニング機構は上皮細胞の受容するTGF-bシグナルに依存しないことが判明した。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題の主たる部分を担う遺伝子改変マウスは、当初の計画通り平成25年度内に作製することができ、現在は安定した生産が可能な状況にある。これらマウスの解析から、腸管上皮細胞におけるTGF-bシグナルの欠如が個体レベルでの自発的な炎症性疾患の引き金とはならないことや、定常状態におけるDCコンディショニング機構は上皮細胞TGF-bシグナル非依存性であることが判明した。これらの結果は申請時当初の予想に反するものであったが、今後の方向性を決定する上で重要な知見を得ることができたと考えている。したがって、現時点での進捗状況はおおむね順調であるといえる。
平成25年度の研究成果から、定常状態におけるDCコンディショニング機構は粘膜上皮細胞の受容するTGF-bシグナルに依存しないものと結論した。同時に、上皮細胞TGF-bシグナルの重要性は定常状態よりもむしろ炎症などの生体に負荷のかかった際に発揮される可能性が示唆された。今後は炎症性腸疾患モデルを用いて、炎症状態における上皮細胞TGF-bシグナルの重要性について検討する。具体的には、上記遺伝子改変マウスにデキストラン硫酸ナトリウムを飲水摂取させることで大腸炎を誘導する。TGF-bは上皮細胞の過剰な増殖応答を抑制することが知られていることから、TbRII-IECKOマウスでは腸炎の回復期において上皮細胞の過形成が誘導される可能性が考えられる。この上皮過形成に伴い粘膜固有層に誘導されるDCのサブセットや機能を、過形成が誘導されない対照マウスと比較検討することで、DCコンディショニングにおける上皮細胞TGF-bシグナルの重要性を探りたい。また申請者は、DCのみTGF-bシグナルを受容することのできないDC特異的II型TGF-b受容体欠損(TbRII-DCKO)マウスでは自発的に自己免疫疾患様の病態が形成され、生後15週齢以内に死亡することを見出している。この機序の詳細についても追求する予定である。
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American Journal of Resiratory and Critical Care Medicine
巻: 187 ページ: 65-77
10.1164/rccm.201203-0508OC
http://www.tmd.ac.jp/mri/bre/index.html